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第120話 「2023年の食中毒と遡り食品衛生年表」

2024.03.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

図1は、過去20年間のわが国の食中毒の事件数と患者数の推移です。厚生労働省が発表している食中毒統計をグラフ化したものです。2023年のデータは、速報値です。2000年頃から、食中毒事件数も患者数も減少傾向が見られていました。2020年には新型コロナウイルス感染症の流行が起こり、国を挙げての対策が実施されました。この対策は図1のように、食中毒対策にも良い影響を及ぼしていました。2023年には新型コロナウイルスへの対策も緩和され、5月には同感染症は感染症法分類の2類相当から5類へと改められました。図1の折れ線グラフのように、食中毒の患者数や事件数の増加傾向が心配されています。

2023年の食中毒を振り返ってみましょう。文末には、過去5年間の食品衛生に関する年表も参考として付記しました。

1)2023年の食中毒について

2023年の食中毒発生事例(1月29日までの取りまとめ)を、厚生労働省が発表しました。概要を、表1に示しました。事件数は1,021件(前年比59件増)、患者数は11,800人(同4,944人増)、死者数は5人(同1人増)といずれも増加していました。患者数が大幅に増加した背景には、ノロウイルスによる食中毒の増加が影響していると思われます。2020年からの国民的な新型コロナウイルス対策がノロウイルス対策にも効を奏していたと思われ、新型コロナウイルス対策が緩慢になっていることが影響していると思われます。コロナ対策を軽視し始めたことが影響し、集会や飲食店の利用が増え、ノロウイルスなどの感染機会が増え、食中毒が増えていると考えられます。

食中毒統計は、主に診察した医師による届け出に基づく調査の集計です(第96話参照:「2021年の食中毒について」)。食中毒全体の把握は、米国のような積極的調査と比較すると、より困難であると思われます。その一方、毎年、同じ調査が行われていることから、食中毒の変容、トレンドの観測は可能だと思われます。

表1のように、ウイルスを原因とする食中毒患者数は5,530人(2022年は2,175人)と大幅に増加していました。表2のように、ノロウイルスによる食中毒が大部分でしたが、その他のウイルス(ロタウイルス)による食中毒による1名の死者が報告されています。患者数は28名でした。

細菌を原因とする食中毒は、310件(2022年は258件)発生し、患者数は4498人(2022年は3,545人)と2割程度増加していました。サルモネラ属菌と病原大腸菌(非・腸管出血性大腸菌)による食中毒では、各1名の死者が報告されています。

9月に発生した駅弁を原因食品する食中毒は、最終的に29都道府県から554名の患者が報告されました。広域大規模食中毒でしたが、病因物資が特定できていません。表1では、原因不明の食中毒に含められています。

図2は、病因物質ごとの食中毒事件数の経年変化であり、図3は患者数の変化です。カンピロバクター属菌による食中毒は、事件数および患者数ともに増加していました。表2に2023年の微生物による食中毒の発生状況を示しました。

アニサキスを主な病因物質とする寄生虫による食中毒事件は、前年よりも事件数(566件→432件)、患者数(578人→441人)ともに減少していました。一方、寄生虫クドアによる食中毒は、前年よりも事件数(11件→22件)、患者数(91人→250人)ともに増加していました。

表3に食中毒による死亡例を示しました。死者4人の食中毒の原因は、ウイルス1人、細菌2人、キノコ1人でした。

2)過去5年間のさかのぼり食品衛生年表

2023年から2019年までに起こった、食品衛生に関係する主な出来事を、遡って表4に書き出してみました。2018年以前の出来事は第100話を参照して、食品の安全性確保の参考にしてください。

参考文献:

1. 厚生労働省:食中毒統計・調査結果

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html

表4 食品衛生関係の主な出来事―遡り年表(2024年2月21日現在)


【国内】・老人保健施設で28人発症、1名死亡。ロタウイルス食中毒。・ノロウイルスやウェルシュ菌による食中毒が多発。・老人施設18人下痢や発熱、病原性大腸菌食中毒、1名死亡。・流しそうめんによるカンピロバクター属菌食中毒、892人発症。・弁当によるサルモネラ属菌食中毒、113人発症、1人死亡。 ・駅弁による食中毒。29都道府県554人発症。セレウス菌や黄色ブドウ菌が疑われたが、病因物質を確定できず原因不明扱い。・イベント会場でマフィンを出張販売。体調不良者が多数となり、厚生労働者はクラス1リコール発令。病因物質を確定できず食中毒扱いとはされなかった。・カビ毒の基準値違反の小麦の回収が行われた。・アニサキスとともにクドアによる食中毒が多発。・年末を迎えてノロウイルス食中毒が多発。

【国際】・米国、ミルクシェイク-リステリア食中毒、3名死亡。・北米(米国、カナダ)でメキシコ産メロンによるサルモネラ属菌食中毒発生。232人発症、8名死亡。

【国内】・自衛隊で弁当によるウェルシュ菌食中毒、267人発症。・家庭でグロリオサの根を誤食し、1名死亡。

【国際】・ベルギー産チョコレート菓子によるサルモネラ属菌食中毒による国際的リコール実施。・米国、育児用調製粉乳の細菌汚染被害の発生と生産停止による育児用粉乳の不足。

【国内】・学校と保育所で給食の牛乳を飲み、1,896人発症。病因物質は、下痢原性大腸菌と推定。・寄生虫アニサキスとその他の病原大腸菌による食中毒を除外すると、食中毒は例年よりも減少していた。

【国内】・食料自給率37%(カロリーバース)。・飲食店でサルモネラ属菌食中毒、患者数95名。保育園給食によるサルモネラ属菌食中毒では、44名発症。・家庭、グロリオサの根誤食、患者数2名、死者1名。・事業所給食でヒスタミン食中毒、ウルメイワシ、患者数46名。・旅館でヒラメによるクドア食中毒発生、患者数33名。・各地の給食施設や食堂などで、ウェルシュ菌食中毒が多発。・学校給食施設が調理した小中学校給食で、2,958人が下痢や腹痛。海藻サラダから病原大腸菌O7H4検出。・仕出し弁当により毒素原性大腸菌O25食中毒で2,548人発症。・毒キノコ食中毒、2人発症、1名死亡。・小学校の給食で、カンピロバクター属菌食中毒発生、106名発症と105名発症の2例。

【国際】・Codex「食品衛生の一般原則」改訂。

2018年以前の年表はコチラ<第100話 さかのぼり食品衛生年表>からご覧ください。