home食品衛生コラム食品と微生物とビタミン愛第121話 「能登半島地震後のノロウイルス対策」

第121話 「能登半島地震後のノロウイルス対策」

2024.04.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

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2024年1月1日に、能登半島地震が発生しました。最大震度7の揺れを観測し、津波も発生しました。

人的被害も大きく、図1のように、被災後の感染症のまん延も心配されました。発災から3ヶ月が過ぎました。今のところ、感染症のまん延は起っていないようです。

食品衛生と関係の深い、ノロウイルスを中心に、感染症対策について考察してみましょう。

1)国立感染症研究所によるリスク評価

表1は、発災後1ヶ月の時点の能登半島地震による石川県における被害・感染症に関するリスク評価結果を一覧表にしたものです。

 表1では、①避難所における集団生活/過密状態に伴う感染症、②水系/食品媒介性感染症、③野外活動等で注意する感染症、④感染症発生動向調査で流行がみられる疾患、⑤ワクチンで防ぐことのできる感染症の5つに分類されてリスクが評価されています。各分類とも、総合的なリスクは高いとされていました。

 表1の①には、インフルエンザや新型コロナウイルスなどが含まれています。全国的に患者数が増加傾向にあり、石川県でも増加傾向にあることが心配されていました。避難所においては、引き続き可能な限りの手指衛生、マスクを含む咳エチケットの実践が必要とされました。被災地におけるボランティア活動等においても、感染症を持ち込むことがないよう、マスクの着用を含め可能な限りの感染対策に心がけることが重要であるとされていました。

 ②の水系/食品媒介性感染症には、ノロウイルス食中毒が含まれています。トイレが使えない、清潔な水が使えない避難所等があったことから、まん延が心配されていました。実際に避難所等において感染性胃腸炎の発生が報告されていました。断水の影響等により安全な水の利用が困難であり、衛生状態が維持できない避難所では、感染拡大のリスクは高いと懸念されていました。

手洗いなどの衛生対策強化に加えて、食品衛生管理の強化、トイレの衛生状態の保持が重要でした。特に避難所において嘔吐・下痢の症状が出現した際は、速やかに申告するよう避難者、支援者含めすべての避難所関係者に周知することが求められました。可能な限りの患者の隔離及び塩素系消毒薬を用いた環境消毒が望ましいとされました。

 ③には、破傷風などが含まれます。がれき撤去等の作業による外傷が起こったり、泥流や土壌に接触したりした後に発症する可能性があります。ワクチン未接種の場合にリスクがあるため、必要に応じて破傷風トキソイドの接種が必要です。ボランティア活動を含め後片付け等の作業に当たる場合は、手や足を完全に覆う服装により肌の露出を少なくし、けがをしないようにすることが求められます。

④には、咽頭結膜熱(プール根地)などが含まれます。石川県内の定点サーベイランスにおいて流行がみられており、避難所における可能な限りの手指衛生、マスク着用を含む咳エチケットの実践が必要とされています。

⑤には、麻疹(はしか)などが含まれます。今年になり、海外から帰国後に発症したり、帰国者に由来する感染例が国内で増えています。石川県内では届出はないようです。避難所に感受性者(乳幼児やワクチン未接種者等)が居住する場合、感染力が強く、空気感染により伝播する麻疹には十分に警戒をする必要性があります。麻疹様症状を呈する者が認められた場合には速やかな隔離が必要です。感染防止や重症化の予防のためだけでなく、感染拡大を防止するためにも、接種可能な場合にはワクチン接種を検討することが望ましいとされています。

2)ノロウイルス食中毒の発生状況

表2は、2024年2月以降の新聞報道などから得た、ノロウイルスが検出された集団感染性胃腸炎の発生状況です。病因となったノロウイルスを食品が媒介したと判定されると、食中毒として報告されます。

表2のように、2月以降は被災地での感染性胃腸炎の集団発生は報道されていないようですが、油断禁物です。

2023年は、感染性胃腸炎による死者が報告されています。例年、冬季にノロウイルス食中毒は多発する傾向がありましたが、現在では季節を問わず注意が必要です。

図2と図3は、岩手県盛岡市と北海道旭川市で発生したノロウイルス食中毒の記事です。

いずれも、沢山の低年齢の子供たちが発症しています。

図4は、恵方巻と惣菜を原因食品とするノロウイルス食中毒に関する報道です。最終的には479人もの患者が発生していました。衛生当局としての島根県は、138人の患者発生までしか公表していませんでした。表2のように2月6日に患者が発生していますので、適切に広く情報を提供し、食中毒の拡大防止に努めるべきでした。

3)ノロウイルス対策について

図5は、ノロウイルス食中毒の特徴を示しています。ノロウイルスを良く理解して、感染しないようにしましょう。感染しても、症状を示さない不顕性感染者もいることに注意が必要です。

感染経路は、以下の4つです。協力し合って、感染経路を遮断し、効果を高めましょう。

(1)経口感染―ノロウイルスに汚染された食品を十分に加熱せずに食べた場合に起こります。ノロウイルスに感染した人が調理することによって、食べ物にノロウイルスが付着し、それを食べることなどによって二次的に感染します。

(2)接触感染―感染者のふん便やおう吐物に直接触れて手や指にノロウイルスが付着することによって感染します。接触感染は、感染者が排便後に十分手を洗わずに触れたトイレのドアノブなどを介しても起こります。

(3)飛沫感染―感染者のおう吐物が床に飛散した際などに、周囲にいてノロウイルスの含まれた飛沫を吸いこむことで感染します。

(4)飛沫核(空気)感染―感染者のふん便や吐物が乾燥し、付着したほこりとともに空気中を漂います。これを吸いこんだりして、消化器へノロウイルスが侵入することで感染します。

ノロウイルス食中毒を防ぐためには、ノロウイルスの予防4原則「持ち込まない」「つけない」「やっつける」「拡げない」を心がける必要があります。食品を取扱う人が感染していると、食品を食べる人に二次感染してしまいます。腹痛や下痢の症状があるときは、食品を直接取り扱う作業は控えましょう。

 調理や盛り付けなど各作業の前にも、せっけんを使って丁寧に手を洗いましょう。指先や指の間、爪の間、親指の周り、手首、手の甲など汚れの残りやすいところもしっかりと洗いましょう。ノロウイルスにはアルコール消毒は効果がありませんので、頻繁に石鹸を使った手洗いを行いましょう。 加熱によりノロウイルスを死滅させるためには、中心温度85~90°C、90秒以上の温度管理が必要です。

 ノロウイルス感染が身近で起こったときには、食器や生活環境などの消毒を徹底しましょう。また、感染者のおう吐物や乳幼児のおむつ等を処理するときは、マスクやビニール手袋を使うなど十分注意し、二次感染を防止しましょう。床などの消毒には、薄めた塩素系消毒剤を使いましょう。

参考文献:

1)内閣府:新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイント、

https://www.bousai.go.jp/pdf/covid19_tsuuchi.pdf

2)国立感染症研究所:被災地・避難所でボランティアを計画されている皆様の感染症予防について、令和 6 年 1 月 19 日

https://www.bousai.go.jp/updates/r60101notojishin/pdf/r60101notojishin_kansensho_yobo.pdf

3)厚生労働省:感染性胃腸炎(特にノロウイルス)について、

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/norovirus/