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第22話 謹賀新年,並行複発酵に乾杯!

2016.01.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

新年、明けましておめでとうございます。

小生が子供のころの子供達は,1年に1度だけ,お酒を飲まされました。元旦の朝です。お屠蘇(とそ)と呼ばれる妙な味と臭いがする液体でした。最近は,お屠蘇を飲む習慣も少なくなったようですね。

図1は,明治神宮に奉納された樽酒の一部です。誰が中身をいただくのでしょか?一人で飲んだら大変なことになって,神様のバチが当たるのでしょうか。升は,京都の日本食品衛生学会の懇親会でいただいたものです。会場が伏見に近いこともあり,美味しい日本酒が沢山,並べられていました。日本各地にも,美味しいお酒が沢山ありますね。

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お酒の醸造法3種類

日本酒は,世界に誇るユニークなお酒です。アジアに伝わる並行複発酵によるお酒の代表として,その美味しさが,国際的に認められています。図2に,単発酵の代表としてワイン,複発酵の代表としてビール,そして並行複発酵の代表として日本酒の醸造過程を簡略化して示しました。

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日本酒造りは最も高度な技術を必要とする酒造りといわれています。図3のようにタンクの中で、麹カビでデンプンをブドウ糖へ加水分解して糖化することと、酵母によるアルコール発酵を同時に行います。デンプンはブドウ糖になり、ブドウ糖はアルコールへと変化します。

図2のようにワインでは、ブドウ果実に含まれている糖を使って酵母がアルコール発酵を行います。絞った果汁に、直接酵母を加えます。単発酵と呼ばれています。

ビールの原料である大麦種子の中には、デンプンが含まれています。酵母は、デンプンからアルコールを直接、発酵することはできません。ビールでは、デンプンを麦芽糖へと変換します。この麦芽自身の酵素を用います。大麦に水を与えると発芽が始まり、酵素が誘導され、図2のようにデンプンが分解され麦芽糖が産生され始めます。麦芽糖を含む麦芽汁に酵母を加えて、アルコール発酵を行わせます。「大麦(デンプン)→麦芽糖」と「麦芽糖→アルコール」の工程は別々のタンク内で行われることから、単行複発酵と呼んでいます。第18話も参考にしてください。

 

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日本酒では米を原料とします。米にはデンプンが含まれていますので、酵母がアルコール発酵に使えるようにブドウ糖へと変換することが必要です。米を蒸して、冷やしたのち、麹カビを振りかけて、デンプンを分解する酵素を産生させます。酵素によりデンプンはブドウ糖に加水分解されます。このブドウ糖を使って酵母はアルコール発酵を行います。日本酒では「デンプン→ブドウ糖」と「ブドウ糖→アルコール」という過程を同時にタンク内で行います。この醸造方法は、並行複発酵と呼ばれています。国際的にも、稀な醸造方法ですが、蒸留しなくても20%を超えるアルコール濃度の酒も造ることができる優れた長所を持っています。

並行複発酵によって作られる日本酒は、世界に存在する発酵法の中でも最も高度な技術であるといわれています。

聖徳太子は、同時に10人の話を聞いて理解したと伝えられています。せめて、日本酒の醸造のように2つの仕事を上手にタンク内で同時進行できたらいいですね。頭のシンクタンク内で並行複式発考(発明考案)ができますよう,麹カビさん、酵母さん、今年もよろしくお願いします。

 

【参考文献】

1)和田美代子・著、高橋俊成・監修:日本酒の科学、講談社(2015)