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第23話 低pHかつ低水分活性食品でも食中毒発生

2016.02.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 食中毒菌を含む微生物は、厳しい環境にも適応しながら生残ることがあります。食中毒や腐敗を防ぐために食品は、水分活性(Aw)を低くしたり、pHを小さくしたりされることがあります。Awが低くなると微生物が使える食品の水(自由水)が少なくなり、pHが低くなると食品の水分の水素イオン濃度が多くなり、微生物は次第に増殖が出来なくなります。胞子を作って、耐え忍ぶ微生物もいます。胞子を作らない食中毒菌も油断できません。今回は、リステリア・モノサイトゲネス(Lm) とサルモネラ属菌(Sal)の生残りによる食中毒事例についてお話しします。

 

1) 米国式リンゴ飴―キャラメルアップルによるリステリア食中毒

 2014年に米国で「キャラメルアップル」で大きな食中毒が起こりました。専門メーカーの製品でした。患者数は35名、そのうちの7名が死亡しています。キャラメルアップルは、ハロウィンの季節に食べる習慣があります。熱で溶かした飴でリンゴをまぶして作ります。リンゴは酸性で、飴は水分活性が低いことから、食中毒は起こりにくく、低温管理も必要ないとされていました。

 

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 図1に示しますように、ウィスコンシン大学食品研究所で4種類のLmを混合して添加した再現実験が行われ、興味深い結果が得られています。カラメルアップルに木製の「柄」を差し込むことで、Lmの増殖が加速されることが判明しました。「柄」を差し込んだ場合は冷蔵庫に保管しても、図1のように、時間はかかりますが、Lmは増殖することが明らかになりました。「柄」を付けずに、冷蔵庫で保管したカラメルアップルでは、Lmは4週間以上増殖しなかったそうです。「柄」をリンゴに刺し込むことで果汁がキャラメル層に供給されるようになり、Lm菌が増殖し易くなったと推察されています。「柄」を通して、水分や栄養素がリンゴの表面や芯などにいたLmに供給されたのでしょう。

第6話や第16話でも紹介しましたように、Lmは胞子を作りませんが、環境のあらゆるところに存在する可能性があり、かつ、優れた環境適応能力を有する食中毒菌です。カラメルアップルのように昔から食べられていた食品でも油断はできません。Lmの生命力を尊敬しつつ、「見える清潔、見えない清潔」(第9話)を実践しましょう。

 

2) ピーナッツバターによるサルモネラ食中毒

 2008 年9 月ころから翌年2月にかけて、サルモネラ属菌(Salmonella Typhimurium)に汚染されたピーナッツバターを感染源とする食中毒が全米各州で発生しました。43 州で550 名の食中毒患者が発生し、患者は全年齢層にわたり、半数の患者が16才未満の子供でした。また死亡患者は9名に及んでいます。ピーナッツ関連製品会社が製造したピーナッツバターから食中毒の原因となったとS.Typhimurium同じ菌株が検出されています。このピーナッツバターは、学校や病院の他にレストラン等で使用されていました。また、クッキーやシリアル、アイスクリームなどの食品製造にも使用されていました。食中毒原因食品となったピーナツ製品メーカーの最高経営責任者は、禁錮28年の実刑判決を言い渡されています。

 

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従来から、サルモネラは乾燥や脂肪分の多い食品などで生残り、過酷な環境にも耐性は高いと認識されていました。この食中毒事件により、改めて、低水分活性食品等における微生物対策の見直しが必要となりました。図2は、ジョージア大学食品安全研究センターのBeuchat先生らの実験の報告です。Beuchat 先生は、我が国のカイワレ大根事件(1996年)の時に、大変お世話になった食品衛生の専門家のお一人です。図2の実験は、クッキーサンドやクラッカーサンドの中身(フィリング)に5種のサルモネラを混ぜて添加した時の死滅曲線です。実験に使われたクッキー、クラッカー、そしてフィリングは水分活性が低く、Salは増殖していません。しかし、ピーナッツバタークリームサンドクッキーのサルモネラは182日を経過しても、沢山生き残っていることが明らかにされています。他の実験区でもサルモネラは、しぶとく生き残っていました。

Sal等の病原体中には、増殖環境が整うまで耐えて生き延びる性質を持つものがいることに注意が必要です。

 

3) 各種食品の衛生対策

今回紹介しましたカラメルーリンゴやクッキーサンドのような、酸性かつ、あるいは低水分活性の食品でも、食中毒が起こっています。NACMCF(米国微生物基準諮問委員会)は、食品のpHと水分活性の組み合わせにおいて対策を取るべき食中毒菌をリスト化しています(参考文献3)。表1は、その1部を示しています。pHや水分活性が表1よりも高い食品では、より慎重は対応が必要になります。

 

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NACMCFは、表1に示された食中毒菌を用いた添加後の殺菌実験ができない場合でも、サロゲート(代替微生物)と呼ばれる非病原性E.coliL.innocuaCl.sporogenes他を使用した確認を行うことを推奨しています。各食品での増殖挙動や、殺菌や不活化を確認する必要があるとしています。

食中毒菌も環境に適応しながら進化しています。LmとSal等は我々の体内に侵入すると、免疫系に取り込まれて、適応し、生残り、サバイバルすることもあるようです。食品取扱い者も、科学的な根拠を大切にしながら、進化を続けましょう。

 

【参考文献】

1)K. A. Glass, et al: Growth of Listeria monocytogenes within a Caramel-Coated Apple Microenvironment, mBio, 6(5), e01232-15 (2015)

http://mbio.asm.org/content/6/5/e01232-15.full.pdf+html

 

2)L.R.Beuchat,et al: Survival of Salmonella in Cookie and Cracker Sandwiches Containing Inoculated, Low–Water Activity Fillings, J.Food Protection, 78(10), 1828–1834(2015)

 

3)NACMCF: Parameters for Determining Inoculated Pack/Challenge Study Protocols, J.Food Protection, 73(1),140–202(2010)