第24話 フグ毒の生産者は誰

2016.03.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

小生は、フグ食の盛んな北九州で育ちましたので、フグは沢山食べました。縄文時代の貝塚からフグの骨が発見されたことから、我が国では大昔からフグは食べられていたようです。フグはテトロドトキシン(TTX)と呼ばれる猛毒を持つことからフグを食べる民族は多くはありません。我が国もフグ食による多くの犠牲者を出したことから、フグを食べる場合は、フグ調理師の免許を持った者が処理することが必要です。TTXは青酸カリの約1000倍の毒性を示す猛毒です。加熱にも強く、通常の加熱調理では壊れません。成人の致死量は、約2ミリグラムといわれています。

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1)フグ毒TTXを作っているのは

 TTXはフグ科の魚類(ハリセンボンも含む)から検出されます。ツムギハゼ、ヒョウモンダコ、バイ、ヒトデ、スベスベマンジュウガニ、藻類等の海にいる生物のほか、淡水域で暮らしているイモリやカエルなどの両生類からも検出されています。フグがなぜ毒化するかについては、まだ詳細には分かっていませんが、どうやらTTXは細菌が作っているようです。Vibrio alginolyticus, V.damsela, Pseudomonous, Staphylococcus等がTTXを作ることが明らかにされています。図1の細菌や産生されたTTXが、プランクトンや底生生物に取り込まれ、さらにヒラムシ、ヒトデ、巻貝などに食物連絡によって取り込まれ、フグがこれらを食べることにより毒化すると推測されています。多くの生物は食物連鎖によってTTXを得たとしても、無用のものとして排出するのでしょう。上記のTTXが検出される生物は、TTXを排出せずに蓄積すると思われます。

 フグにおけるTTXの特徴を表1に示します。

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2)フグ毒中毒かなと思ったら

 フグ等の食後に、口の周りが引きつる等の症状を感じたら、病院に連れて行ってもらうことが必要です。フグあるいはフグらしきものを食べたことを医師に伝えることが大事です。表2に示したように、食後の潜伏期が短ければ短いほど、死亡率が高いこともあり、病院で迅速に呼吸管理等の適切な処置を受ける必要があります。

 

3)養殖フグについて

餌と飼育環境を管理し、卵から人間の手で育てたフグは無毒であることが判明しましたが、養殖フグの無毒で安定的に供給できる保証は未だありません。養殖ふぐと天然ふぐを一緒に水槽に入れておいたところ、養殖フグが天然フグを襲い、養殖フグも毒を持つようになった事例もあるそうです。フグは体表面からTTXを放出するという習性もあります。フグの毒化機構が十分に解明されていないと食品安全委員会は判断しています。TTXを産生する細菌等についての研究が進展し、必要な情報が提供されリスク分析が行われない限り、天然フグと同様のリスク管理を続ける必要があります。

 フグにとってTTXは、生体防衛物質なのかも分かりません。養殖フグは天然フグに比べ魚病や寄生虫に対する抵抗力が弱いそうです。フグは自分自身の身を守るために、食物連鎖で毒を体に取り組み自己防衛に使っているようですね。

 

 

【参考文献】

1)厚生労働省:自然毒のリスクプロファイル:魚類:フグ毒(2016)

http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_01.html

2)糸井史朗:フグは毒を何に使うのか? トラフグ属の生存戦略、化学と生物、52,403-407( 2014)

3)食品安全委員会:佐賀県及び佐賀県嬉野町が構造改革特別区域法に基づき提案した方法により養

殖されるトラフグの肝に係る食品健康影響評価について(2006)

https://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20050111180