第2話 食中毒と微生物

2014.05.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

微生物も一生懸命に生きています。一所懸命に命がけで生きていると言った方が実態に合っているように思われます。微生物がいなかったら地球上の物質循環、特に生物界の物質循環は進行しなくなる可能性があります。食事とともに病原体としての微生物や微生物が産生した毒素が我々の口に入ると、食中毒を引き起すことがあります。

 

 

表1は、2013年の我が国の食中毒発生状況です。原因物質別に分類されています。

患者を診察した医師によって届けられ、保健所によって調査され、食中毒として確認された事例の集計ですので、実態はもっと多くの食中毒が発生しているのではないかと思われます。

例年のことですが、2013年も食中毒原因物質としては、微生物が大部分を占めています。細菌性、ウイルス性、さらには肉眼では見ることができない原虫等による寄生虫性の食中毒を微生物性食中毒と呼ぶことがあります。2013年の食中毒事例の表には、原因不明の例は示していませんが、総数931件(患者数20,802名)のうち88%(患者数では96%)が微生物性食中毒によるものです。

 

 

化学物質による食中毒の原因物質は、大部分はヒスタミン産生菌が関与するヒスタミンです(図1)。

厚生労働省は、食中毒の原因物質であることから化学物質による食中毒として分類しています。米国を始めとする諸外国のヒスタミン規制が厳しくなり、図1のようにヒスタミンが検出されたことによる大量の食品のリコール(製品回収)も報告されるようになりました。

ヒスタミン産生にも微生物が関与していることもあって食品の品質管理おける微生物性の重要性はさらに高くなっています。安全な食品の安定供給や調達には、微生物についても良く知り、対策を実施することが必要です。

 我々は微生物とは縁遠いと思われがちですが、我々の身体は60~100兆個の人体細胞と、ほぼ同数の微生物の共生の場です。共存共栄関係を保って健康に暮らしたいものです。日本列島には1億2千万人、地球上には72億人が暮らしています。微生物の数に比べれば、たいした数ではないのでしょうが、知恵や技術を持つ人間の責任は重大です。

 

【参考文献】

厚生労働省:食中毒事件一覧速報

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html

 

日本食品分析センター:ヒスタミンについて、JFRL ニュース Vol.4 No.2 Oct. 2011

http://www.jfrl.or.jp/jfrlnews/files/news_vol4_no2.pdf#search=’%E3%83%92%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%A3%9F%E4%B8%AD%E6%AF%92′