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第12話 細菌の多細胞化?「菌は石垣、菌は城」

2015.03.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 人間は社会的生物です。現在では、72億人が地球上で暮らしています。人口密度の高いところも、低いところもあります。一人だけで遠く離れて、自給自足で暮らしている人は、滅多にいないと思われます。細菌も1細胞だけで漂って場合もありますが、集団で生活をしている場合もあります。特に、栄養素が少ない上下水道や川の中ではお互いに集まって、流されないように、助け合って暮らしている場合があります。同一細菌だけはなく、多種類の微生物が助け合って、あたかも多細胞生物のように助け合って暮らしている場合もあります。戦国時代武将・武田信玄は、「人は石垣、人は城」という言葉を残しました。細菌に教えて貰ったのかもしれませんね?

 

1.バイオフィルムとは

 水分の少ない環境でも、細菌が集団生活を送っていることも分かってきました。図1は、アルファルファもやしに取りついて生きている細菌たちの様子です。このような、集団生活はバイオフィルムと呼ばれています。米国では、アルファルファもやしが媒介したサルモネラ属菌やO157による大きな食中毒が続き、東部および西部農業研究所で徹底的に対策が研究されました。その過程で、図1にようにアルファルファもやしにバイオフィルムできており、洗浄・殺菌に抵抗性を示すことが明らかになりました。

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 図1のように拠り所を見つけ、そこから仲間を増やし、フィルム状に広がり始めます。条件次第では、立体構造をとるようになり、表面(外側)には好気性菌、底部(内側)には嫌気性菌が配置される場合もあることが知られています。

 生物体内でも同様な現象が起きています。虫歯の発生にはプラーク(歯垢)と呼ばれるバイオフィルムが深く関係していることも知られています。食中毒菌や食品の腐敗菌の中にも、バイオフィルムを作り、脱離した菌が、たどり着いた場所でバイオフィルムを作る離合集散を繰り返すものがいます。食品工場等の食品取扱い施設でも、家庭の台所でも、バイオフィルムを発生させない衛生管理が必要です。

 バイオフィルムは、細菌類が作り出す多糖など粘り気の強い物質を含む物質と菌体などから、少しずつでき上がって行きます。次第に、加熱殺菌の効果が低くなり、除菌剤や殺菌剤も効きにくくなって行きます。熱や薬剤が届く表面の菌は殺菌されても、バイオフィルム内部の菌が生き残るようになります。

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 大腸菌などのグラム陰性菌は、菌体外に葵膜(きょうまく)や粘液性物質などを産生する性質を有するものが多く、バイオフィルムを作る端緒になり易いと考えられています。グラム陽性菌にもバイオフィルムを作るものがいます。食品取扱い施設で、しばしば問題になる細菌を表1に示します。写真の食中毒菌は浮遊(プランクトン)状態と呼ばれる状態です。たどり着いた環境が、バイオフィルムとなった方が生き残りに適していれは変身します。

 

2. 食品取扱い施設等での注意点、

 バイオフィルムができ易いのは、水分の豊富なところです。ステンレスでもプラスチックでもバイオフィルムはできます。見えないパイプの中にもバイオフィルムはできます。もちろん。木でも石でも、コンクリートでもバイオフィルムはできます。図1のアルファルファのように、原材料である野菜や動物にも、バイオフィルムができているものがあります。これらのバイオフィルムが、食品の汚染源になることがあます。

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 食品取扱い施設の設備等には、バイオフィルムが形成されにくい材料を用いる必要があります。付着した有機物の残渣が残ってバイオフィルム形成の足掛かりなることにも注意が必要です。対策の基本は洗浄と殺菌です。新品のパイプ等の表面に付着する最初の物質は微生物ではなく微量の有機物です(図2)。洗浄にあたっては適切な洗浄方法と洗浄剤を選ぶ必要があります。ブラッシングや高圧洗浄など表面に対する物理的な方法を併用すると効果が上がります。傷や凹みとのある面は念入りに洗浄する必要があります。洗浄・殺菌がし易いように、分解したり、組み立てたりすることが容易で、清潔である作業環境の維持が必要です。

 

参考文献:

小久保彌太郎編:現場で役立つ食品微生物Q&A、第3版、p.220、中央法規出版(2011)

W.F.Fett: J.Food Protection, 63(8),625-632(2000)

土戸哲明:日本食品衛生学雑誌、43,J-283 (2002)