home食品衛生コラム食品と微生物とビタミン愛第115話 水由来のカンピロバクター属菌食中毒

第115話 水由来のカンピロバクター属菌食中毒

2023.10.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

水由来のカンピロバクター属菌食中毒

 図1のように、9月16-17日に青森県で製造された弁当により、北海道から九州に及ぶ広域食中毒が発生しました。八戸保健所は23日、黄色ブドウ球菌(エンテロトキシンA型)及びセレウス菌(エンテロトキシン産生)による食中毒と判断し、当該事業者の営業を禁止しました。この食中毒については、詳細な情報が公表されましたら解説をお届けしたいと思います。

 今回は、8月に発生しました水が媒介した食中毒について解説をお届けします。 図2のように、8月中旬から石川県の観光名所で「流しそうめん」による食中毒が発生していました。病因物質は、カンピロバクター属菌でした。

水由来のカンピロバクター属菌食中毒

 本属菌による食中毒は、近年、事件数および患者数ともに上位を占めていました。2022年の事件数は185件(2位、1位はアニサキス食中毒)、患者数は822人(3位、1位はノロウイスル食中毒、2位はウェルシュ菌食中毒)でした(第113話)。

1)水由来のカンピロバクター属菌食中毒について

 図3は、カンピロバクター属菌による食中毒の概要を示しています。動物や家畜、特に鶏の腸管内の高温、高湿、低酸素濃度環境で良く発育します。糞とともに体外に排出され、周辺環境を汚染します。家畜の屠殺や食肉への処理は注意深く行われていますが、可食部への移行・汚染が生じることがあります。

 鶏肉などの汚染率が高いことが知られており、肉類の生食は避けるように指導されています。低温調理を行う場合には、十分な加熱温度と時間で殺菌効果を確実なものにする必要があります。

 カンピロバクター属菌は、国際的にも注意を必要とする食中毒菌とされ、農場から食卓までの対策が取られています。英国などでは、消費者に対して鶏肉を購入し、持ち帰ったならば、直ちにオーブンで加熱殺菌するように指導されています。生肉の水洗いなどで、カンピロバクター属菌を拡散させないように注意喚起が行われています。

水由来のカンピロバクター属菌食中毒

 図3の<過去の原因食品>の欄にも示されていますが、飲料水や生野菜を汚染し、食中毒を引き起こすこともあります。図2の流しそうめんによる食中毒も、使用水(湧き水)にカンピロバクター属菌が入り込み、塩素による消毒も行われていなかったことが原因でした。

 1982年には、表1のように7,751名にも及んだ患者を発生された食中毒を起こしています。原因食品は、飲料水(井戸水)でした。新規開店した大型ショッピングセンターの井戸水が汚染され、その上に塩素殺菌装置が故障していました。

水由来のカンピロバクター属菌食中毒

 食中毒原因菌として、カンピロバクター・ジェジュニと病原大腸菌が報告されています。死者が出なかったことが、不幸中の幸いでした。

 本年8月に発生した「流しそうめん」による食中毒(図2)も、調理に使った湧き水の原水からカンピロバクター属菌が検出されています。

 当該「流しそうめん」は、夏だけの期間限定の営業で30年以上の歴史があり、地元では季節の風物詩として親しまれていましたと報道されています。その一方で、大雨の影響を受け、今期の営業前の水質検査を怠っていたとの報道もなされているようです。塩素殺菌がされていたのかは、不明です。水源の近くではイノシシが捕獲されているとの報道もあります。イノシシは高率にカンピロバクターを保菌していると考えられます。

  流しそうめんの事業者は、被害者の補償は行うものの、廃業する意向であると報道されています。カンピロバクター属菌食中毒は、ギラン・バレー症候群と呼ばれる後遺症を発症する場合があります(第50話)。手足のしびれ、四肢の麻痺、呼吸筋麻痺、脳神経麻痺などを起こし、15~20%が重症化し、死に至る場合もあります。長期的な対応も必要です。

2)水由来の感染症について

 1990年10月には、埼玉県の幼稚園で2名の死者を出す悲惨な事件が起こっています。原因菌は、腸管出血性大腸菌0157でした。保健所から、井戸水が飲用不適であると通知を受けた幼稚園が、改善指導に従いませんでした。その結果、園児を含む319人がO157感染症を発症し、園児2名が亡くなってしまいました。園長は業務上過失致死罪で有罪となり、約1億円の損害賠償を命じられています。

水由来のカンピロバクター属菌食中毒

 図4は水を媒介として、人体に侵入する病原体の代表例を示しています。水や食品は、注意深く取り扱う必要があります。わが国も上下水道の整備により、感染症が少なくなってきました。生活に必要なインフラとして、上下水道を守って行く必要があります。

 人間には、清潔な水が必要です。地震や風水害により、インフラが機能を停止し、清潔な水が届かなくなってしまった場合への備えも必要です。

参考文献:

1) 内閣府食品安全委員会: 食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~鶏肉等における Campylobacter jejuni/coli ~(改訂版)、2021 年 6 月、

https://www.fsc.go.jp/risk_profile/index.data/210622CampylobacterRiskprofile.pdf

2) 世田谷保健所:カンピロバクターによる食中毒に気をつけましょう、2023年7月11日

https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/fukushi/003/006/001/d00008554.html

3) 厚生労働省:カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)、2016年6月2日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126281.html