home食品衛生コラム食品と微生物とビタミン愛第110話 知っておくべき「食中毒とリコール事例」

第110話 知っておくべき「食中毒とリコール事例」

2023.05.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

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2023/5/1 update

  

 

 

図1は、わが国における食品関連の事故として、2020年の1年間に食品産業センターが把握した件数です。食品事故件数の過半数を占めていたのは、不適切な食品表示でした。多くの食品が、リコール(製品回収)されています。図1の右側には、不適切な食品表示原因の内訳が示されています。アレルゲンの関するものが最も多く、次いで、期限表示の誤記が第2位となっています。これらは事件数の集計であり、食用不適やその可能性からリコールされた食品の量は、把握されていません。

長い歴史を持つ米国の非営利・消費者団体Consumers Unionは、食用不適とされリコールされた食品の量的な推計を試みています。深刻な食中毒の発生とそれに伴うリコールについて調査し、「知っておくべき上位の10件」を選定し、発表しています(表1)。食用不適とされ、リコールされた食品の量も推計されています。

 新型コロナウイルス対策の波及効果だと思われますが、わが国でも、この3年間は食中毒事件が少なくなっています(第96話)。国民各位が、手洗いの励行などの清潔な暮らしを心がけたことが良い影響を及ぼしていると思われます。新型コロナ感染症が沈静化しても、食中毒の少ない状態は続いて欲しいものです。

 

 

1) Consumers Unionによる調査

  Consumer Unionの食品安全専門家は、2017から2022年までの間に発生した深刻な食中毒やリコール事件を調査しました。米国食品医薬品庁FDA、疾病予防管理センターCDCならびに農務省USDAの関連データを取集し、解析しました。

病原細菌による食中毒とリコールに焦点を絞るために、食物アレルギー(第104話)や育児用ミルク(第98話)と健康食品に関する事件やリコールを除外しています。事件の深刻さを評価する指標として、死者数、患者数ならびにリコールの件数や回収された食品の量に注目しました。順位付けをおこなうために、原因食品と病因細菌との組み合わせを評価しています。深刻な組合せの上位10件は、表1のとおりでした。

 

①「葉物野菜」と「大腸菌やリステリア」の組合せ

北米では、ロメインレタスなどの葉物野菜の生食による食中毒が繰り返し発生しています。原因菌は、腸管出血性大腸菌(第51,59話)やリステリア(第98,105話)でした。

11名もの死者を出しています。リコールされた食品には、そのまま食べられる袋入りサラダも含まれます。これらの製品は通常、kill stepと呼ばれている効果的な殺菌過程はありませんが、多くの場合、そのまま生で食べられています。病原体がいれば、そのまま摂取されます。

 Consumer Unionは、「最も多くの死亡者を出した食中毒の背後には葉物野菜の存在が疑われ、リコールも50件と 2 番目に多かった」と、注意を呼び掛けています。4,390千ケースにのぼる大量の葉物野菜が、リコールされています。 Consumer Unionは、葉物野菜による食中毒発生の可能性を減らすために、消費者は丸ごとのレタスなどを購入し、病原体が発見されることもある外側の葉を取り除くことを検討すべきであると述べています。

 

②「チーズやRTE肉製品」と「リステリアやサルモネラ属菌」の組合せ: 

RTEは、Ready To Eatの略で、「そのまま食べる」ことを意味しています。食中毒やリコールの原因と食品には、ソーセージ、サラミ、ハム、ランチ ミート、スライスチーズ、各種のソフトチーズが含まれています。原因菌は、リステリアやサルモネラ属菌(第98話)でした。

 7 人の死亡者と 409 人の患者が発生し、7,710トンの関係食品が回収されました。リコールの主な理由は、リステリアによる汚染です。リステリアは氷点下の温度にも耐えることができるため、冷蔵庫を過信すべきではありません。RTE肉製品やチーズをスライスするために使用される器具は洗浄が難しく、少量の細菌でも汚染されると、大量の食品を交差汚染させる可能性があります。リステリアは、妊婦や病人、高齢者などには危険な病原体で、感染すると流産や死亡に至る場合もあります。 Consumer Unionは、特にハイリスクの人々はRTE肉製品やチーズを避け、代わりに包装済みの加熱製品を購入することを奨めています。

 

③「牛ひき肉」と「大腸菌やサルモネラ属菌」との組合せ: 

2 件の食中毒事件を起こし、2名の死者と643人の患者を出しています。6,230トンの牛ひき肉が回収されています。病原菌は、サルモネラ菌と腸管出血性大腸菌でした。知っておくべきことは、汚染された牛肉を少量であっても、一緒にミンチしてしまうと、清潔な大量の牛肉も汚染されることです。ステーキなどの塊の形態の肉は、表面の汚染菌体が肉内部に押し込まれない限り、適切に加熱調理すると外側の菌は簡単に死滅するため、食中毒リスクは小さくなります。家庭でも汚染を最小に抑えるには、温度計を使用して、牛ひき肉の内部温度が上昇していることを確認することが必要です。

 

④「タマネギ」と「サルモネラ属菌」の組合せ: 

Consumer Union の文書によると、「これが私たちのリストの最初の大きな驚きです。サルモネラ属菌は、どうやって沢山の患者にたどり着いたのですか?」と驚きの声が上がったそうです。主に、2020 年と 2021 年にサルモネラ属菌を「赤、白、黄タマネギ」が媒介した2件の大規模な食中毒とリコールが発生しました。これらの食中毒事件により2,167 人の患者が発生し、427 人が入院しています。35,400トンものタマネギがリコールされました。FDA は、汚染された灌漑用水が原因である可能性が最も高いと推定しています。タマネギによるリスクを最少に抑えるために、消費者は常にタマネギを十分に加熱調理するか、生食する場合には、傷や損傷のあるものを購入しないようにする必要があります(第78話)。

 

⑤「七面鳥肉」と「サルモネラ属菌」、
⑥「鶏肉」と「サルモネラ属菌」の組合せ

七面鳥と鶏のひき肉のサルモネラ属菌食中毒により、七面鳥に関係する死者が 1 人、鶏肉に関係する死者が 2 人発生しています。患者数は、それぞれ 398 人と190人でした。176トンの七面鳥が回収され、88トンの鶏肉が回収されました。

 七面鳥や鶏のひき肉は、牛ひき肉と同様の食中毒リスクがあります。牛肉の肉塊をひき肉にする場合とは異なり、七面鳥や鶏の場合はサルモネラ属菌に汚染されている可能性がより高くなります。鳥類を食用にする場合に状況を複雑にしているのは、サルモネラ属菌を拡散させる脱皮プロセスです。牛肉よりも高速で大量に処理されるため、交差汚染の原因となるリスクが高くなります。さらに、七面鳥や鶏は、通常、密集した環境で飼育されます。サルモネラ属菌に汚染されるリスクも高くなります。

 鶏肉や七面鳥肉によるサルモネラ属菌食中毒を最少に抑えるために、消費者は買い物中や自宅で他の食品とは分けて保管することが必要です。これらの肉の調理は、十分に熱を加える必要があります。購入した鶏肉などは水洗せずに加熱し、水洗による病原体の飛散・拡散を防止しましょう。

 

⑦「パパイヤ」と「サルモネラ属菌」、
⑧「桃」と「サルモネラ属菌」、
⑨「メロン」と「サルモネラ属菌」の組合せ

 

食中毒を起こして、リコールされた食品に、パパイヤ、桃、丸ごとのメロンがあります。カットされたメロンなども食中毒の原因食品でした。

 パパイヤは、2 人の死亡者と 332 人のサルモネラ属菌食中毒の原因食品でした。272トンのパパイヤがリコールされました。

 桃は 101人のサルモネラ属菌食中毒の原因食品でした。51,3 トンの桃が回収されました。

 メロンは 302 人のサルモネラ属菌食中毒の原因食品でした。メロンは丸ごと販売された場合もありましたが、カットされたり、摺りつぶされたりして、様々な形態で販売されていました。回収された総重量等は不明ですが、28万件もの販売に関してリコールが実施されました。

 サルモネラ属菌は、これらの果物の食中毒とリコールの原因となった病原体でした。 Consumer Union によると、桃の汚染経路として考えられるのは、家畜の飼育場と発生する粉塵dustだと推定されています。マスクメロンやその他のメロンは、カット工程で汚染されることがあります。ひき肉や袋詰めサラダと同様、汚染された果物は汚染されていない果物を汚染させ、問題を拡散させます。メロンをカットする器具装置も交差汚染の媒介となります。パパイヤの食中毒リスクは、メキシコから輸入された果物で最も深刻であると推定されています。FDAは、米国外の生産地域を検査し、指導監視することが困難であることが強調しています。 

 消費者は、カット済みの果物や野菜を買わないのが最善であろうとも述べられています。青果物を購入するときは、傷や損傷のあるものは避けるべきです。洗うと、汚れや破片などを取り除くことはできますが、病原菌を取り除くことはできません(第31話)。

 

⑩「小麦粉」と「大腸菌やサルモネラ属菌」の組合せ: 

生の小麦粉や生地やバッター(揚げ物の衣)は微生物的なリスクがあります。大腸菌とサルモネラ属菌が検出された小麦粉を使った生地やバッターで、少なくとも 44 人が病気になっています。加熱される前に口に入れたり、交差汚染を起こしてしまったりしたと考えられています。

 小麦は畑でも汚染される可能性があり、その汚染は製粉プロセスを通じて小麦粉に広がったしまう可能性があります。 消費者は、子供たちに未加熱の小麦粉で遊ばせてはならず、生のバッターや生地を少しでも口に入れさせてはなりません。冷凍品も同様です(第29話)。

 

食中毒やリコール問題が万一、発生した場合に、速やかに回収すべき対象範囲を判定できる自主衛生管理を徹底しましょう。「木を見て森を見ず的な」衛生管理では、全ロットやバッチの製品や原材料が回収対象になってしまいます。 

「知っておくべき」と米国のConsumer Union が報告している食中毒とリコールの事例も参考に、わが国の食生活をより快適なものにする努力を続けましょう。

 

参考文献:

1) L. L. Gill: 10 Risky Recalled Foods You Should Know About, Consumer Reports, March 30, 2023

https://www.consumerreports.org/health/food-recalls/risky-recalled-foods-you-should-know-about-a4109713872/

2) C. Beach: Consumer Reports compiles a list of 10 ‘risky foods’ to watch out for, Food Safety News, March 31, 2023

https://www.foodsafetynews.com/2023/03/consumer-reports-compiles-a-list-of-10-risky-foods-to-watch-out-for/

3) 内田洋行ITソリューションズ:食品リコール最新動向総ざらい、2022年12月26日

https://food.uchida-it.co.jp/info/20221231/