home食品衛生コラム食品と微生物とビタミン愛第106話 正月に思う「天下取っても二合半」

第106話 正月に思う「天下取っても二合半」

2023.01.05

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

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2023/1/5 update

  

新年、あけまして、おめでとうございます。

何時から「天下取っても二合半」は、庶民の間でつぶやかれ始めたのでしょうか? その出典は不明だそうです。江戸時代の武士は1日二食で、米を一人当たり合計2合半食べていたそうです。米一合は、一合升に入る米の状態で異なりますが、約150gです。二合半だと、約375gです。

「起きて半畳寝て一畳」と組み合わせられ、「起きて半畳寝て一畳、天下取っても二合半」とつぶやかれるようになったのは、江戸時代後半以降ではないかと推定されています。

今年も、来年も、飢えることなく、平和で美味しい食事をいただけることを期待しましょう。

 

1) 早いもので 

まさかと耳を疑いましたが、ロシアがウクライナに侵攻しました。早いもので、1年が過ぎようとしています。新型コロナウイルス感染症も地球全体にまん延し、早いもので3年が過ぎようとしています。両方とも悲劇であり、速やかに、そして穏やかに終息することを願っています。

昨年12月に選ばれた「今年の漢字」((公財)日本漢字能力検定協会)は、「戦」でした。ウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル発射などにより、「戦争」を意識させられました。新型コロナウイルスとの「戦い」も続いています。サッカー・ワールドカップへの「挑戦」も行われたことなどから「戦」を選んだ人が多かったのでしょう。漢字「戦」は、図2のように盾(たて)と矛(ほこ)の2つの武具に由来するそうです。

 

 

図3は、農林水産省が発表している食料自給率の推移です。わが国では、食料自給率の減少傾向が続いています。食料自給率との戦いは、腰が引けてしまったのでしょうか。農林水産省は、イザという時にはサツマイモを頼りにしようとしています。その一方で、南九州から、カビによるサツマイモのモトグサレ病が広がり始め、農家は困っています。

 

 

平成5(1993) 年度には、冷害により米等の生育が悪化しました。米不足が心配され、タイなどから米の輸入が行われました。タイ産米の風味を好まない国民が多く、第三国に援助米として提供されるなどの対応が取られました。

 1993年よりも現在の方が、地球環境は変化し易い状況だと考えられます。表1は、1937年からの世界の人口、大気中の二酸化炭素濃度、ならびに原始的な自然の残存率の変化を示しています。人口は増え、二酸化炭素濃度も増えています。原始的な自然は減っています。

 

 

地球環境は変化を続けており、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めであるパリ協定は、むなしい協定への道をたどりそうです。パリ協定は、「産業革命前よりも温度上昇を1.5℃以内に抑える」ことを目指したものです。

気候変動により、北極や南極などの氷が溶け、海水面の上昇で多くの島国が海水の浸入等の被害に苦しんでいます。わが国でも、気温上昇の象徴的な現象として、水産物の漁獲海域や農作物の栽培適地の変動が見られています。

食料自給率の低下を心配する国民も多く、政府は食料自給率を上昇させようとしています。しかしながら、早いもので、わが国の食料自給率が50%を下回ってから、30年が過ぎ去っています。

 

2) 安全な食品の安定調達を

 人類は、従属栄養生物です。他の生物を食べています。食料になってくれている他の生物がいなければ、生きては行きません。図4のように、人類は他の生物と地球で生態系を構成しています。有限の地球環境の中で食料の調達を行いながら、生態系を維持して行かなければなりません。図4のように動的平衡状態を保ちながら、健全なフードチェーンを次の世代に渡す必要があります。

 

 

地球環境の変化、特に気候変動は、表2のようなフードチェーンへの悪影響が心配されています。図5は、EUからの報告です。気候変動が感染症の発生に影響を及ぼし、カンピロバクターなどによる食性病害も増加する可能性が高いことを警告しています。

 

 

 

わが国のフードチェーンは、地球全体に広がっています。食料の一次生産から食事までの全ての過程における科学的な理解と応用に取り組み、国際的なフードチェーンの発展に貢献する必要があります。

 地球環境が変化し、人間社会の変化も続いています。表3のように今後の食品の調達には不安な事項が山積しています。知恵を出し合って、清潔なフードチェーンを次の世代に渡す努力を本年も続けましょう。

 

 

「天下取っても二合半」であり、盾(たて)も戈(ほこ)も収めて欲しいと思います。皆で手を取り合って、気候変動などへ共通の課題に取り組んでいただきたいと思います。食べ物やフードチェーンへの「いただきます」の感謝を忘れずに暮らして行きましょう。

 

参考文献:

1) デヴィット・アッテンボロー、訳・黒輪篤嗣:アッテンボロー生命・地球・未来、東洋経済新報社、2022年12月22日

2) F. Kasuga: Climate change: food safety challenges in the near future, “Present Knowledge in Food Safety: A Risk-Based Approach Through the Food Chain”, M. Knowles et al. ed., ELSEVIER, p.1113-1124, October 8, 2022.

3) EEA: Climate change as a threat to health and well-being in Europe: focus on heat and infectious diseases, No. 07/202, Published 09 Nov 2022, https://www.eea.europa.eu/publications/climate-change-impacts-on-health