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第104話 食物アレルギー死亡事故から10年

2022.11.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2022/11/1 update

  

 

 食物アレルギーは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」です。10年前の2012年12月に、わが国の小学校で食物アレルギーによる死亡事故が発生しました。図1は、事故後10年を迎えるお母さんに面会した記事です。この事故の概要は、表1に示しました。悲しい事故が、繰り返されないように努力しましょう。食物アレルギーに関する対策を考察してみましょう。

 

 

1)ある人の食べ物は他人の毒

 このフレーズは、英語One man’s meat is another man’s poisonの和訳ですが、ローマ時代から語り続けられているそうです。現代でも、食物アレルギーの状況を的確に表していると思われます。

 食物アレルギーの発症による不幸な出来事は、世界各国で起こっていると思われます。途上国では他の疾病と同様に、食物アレルギーも診断も治療も困難な場合が多いことから、事故等の報告は主に先進国からなされています。

 図2は、食物アレルギーの事故などのデータを集めて、その記録を残して、悲惨な事故を減らすための活動に関する報道です。英国では、「ごま」にアレルギー感受性を持つ少女、ナターシャが空港で買ったサンドイッチを食べて発症し、死亡しています。

サンドイッチには、「ごま」を使用しているという表示はありませんでした。ナターシャの死を悼み、国会審議を経て、食物アレルギーの表示が強化されています。ナターシャ法と呼ばれています。図2の報道は、食物アレルギー関連データを集め記録を残す活動に、英国政府が助成金を1年間しか出さないことを問題視しています。

 

 

2)表示による食品アレルギー対策

食物アレルギー体質の方やその保護者が、一目で食べない方が良い食品と判断できれば、発症を回避することができます。原材料が加工され、見た目だけでは、避けるべき原材料や食品であることに気が付かない場合もあります。わが国では、食物アレルギーの発症を防止するため、2001年に「アレルギーを起こすおそれがある原材料を含む食品の表示制度」を世界に先駆けて開始しました。

発症した場合の重篤度や症例数により表2のように、2つのグループに食品を分けて管理しています。食品表示法の食品表示基準で示された7品目の特定原材料を含む場合には、その旨を表示することが義務化されています。現在、くるみを義務表示化するための手続きがとられており、やがて表示義務のある特定原材料は8品目になります。

 

 

表2の下段には、含有している表示をすることを推奨されている21品目(くるみを含む)が示されています。

 国によって、食物アレルギーの発症状況や食文化が異なります。表3は、日本、Codex(国際食品規格委員会)、米国、EUの食物アレルギーの表示対象食品を比較したものです。共通点もあれば、異なる点もあります。食品の輸出入時に、受け入れられない食品となってしまう場合もあります。

 


 

追加ラベルの貼付等で、流通が可能になる場合もありますが、上記のナターシャさんのように最悪の顛末に至る場合もあります。

 食物アレルギー表示が適切ではない場合、事故が起こる可能性が高くなります。事故が起こらなくても、製品回収・リコールが行われます。場合によっては、膨大な量の食品ロスを生じさせてしまう事態に至ることもあります。

 

3) 非常時の食物アレルギー対策

 2011年の東日本大震災では、食物アレルギーを持つ人が、避難所の食品を食べられない事態に陥ってしまうことが問題となりました。その後、政府は食物アレルギー対応食品の備蓄を促しています。台風や集中豪雨でも同様の事態が起こりました。アルファ米や食物アレルギー対応食品を備蓄する自治体も、増えています(図3)。

 


 

 その一方で、食物アレルギー対応食品の備蓄を始めたことを広報している自治体は、未だに多くはないようです。人手不足や予算の不足が原因のようです。「どこに行けば、食物アレルギー対応の非常食を受け取れるのか」についても、平常時から広報に努めることが必要です。非常食に制限のある方は、自ら準備を行うとともに、「どこで食べられる非常食が備蓄されているのか」を調べておくことも必要です。

 避難所での「炊き出し」や「差し入れ」などについても、使用されている食品や原材料も分かるようにしておく準備も必要です。食物アレルギーのある方は、食べたくても食べられない辛い状況に陥ってしまいます。

 

4) ご先祖からの工夫を参考に

 我々のご先祖が安全な食品を安定的に食べ続けるために、調理・加工に工夫を凝らしてきた様子を表4に示しています。食物アレルギー対策のため、食べない方が良い食材のある方にも、安心して食べていただけるように研究開発や料理メニュー開発が行われています。

 


 

 食物アレルギー対応食・料理コンテスト(主催、公益財団法人ニッポンハム食の未来財団)も毎年、行われ、今年で第8回を迎えます。毎年、老若男女を問わず、全国各地から沢山のメニュー提案があります。再現調理・試食を経て、最終審査が行われています。優秀な提案メニューは表彰され、調理法は動画としてメニューとともに公開されています。

https://www.miraizaidan.or.jp/recipe/

 日常食の参考とするとともに、ご自分に合った非常食の備蓄にも参考にされてはいかがでしょうか。

 皆で工夫し、協力して、食べ続けて行きましょう。

 

参考文献:

1) 日本小児アレルギー学会:食物アレルギー診療ガイドライン2021、

https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001331/4/food_allergies.pdf

2)消費者庁:食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書、令和4年3月

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_220601_01.pdf

3)公益財団法人ニッポンハム食の未来財団:食物アレルギーとは、

https://www.miraizaidan.or.jp/allergy/