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第122話 「食品表示と機能性表示食品」

2024.05.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

機能性表示食品としての紅麹サプリを利用した多くの消費者が体調を崩し、5名の方が亡くなったと報道されています(図1)。

食品の表示制度や機能性表示食品の定義などについては、理解に苦しんでいる方も多いのではないかと思われます。2015年に食品表示法が制定され、食品の表示は整理されました。その後も、毎年のように内容が進化し、複雑化されています。食品表示の大切さを再確認しつつ、食品表示制度や機能性表示食品の制度などを振り返ってみましょう。

1)食料調達の分業化と食品の表示

人類は従属栄養動物であり、食べないと生きて行けません。食品の原材料は、生物です。図2は、原材料の採取、生育から消費までのフードチェーンを表しています。食料の調達は、次第に分業で行われるようになり、現在では地球全体がフードチェーンで結ばれていると言っても過言ではありません。とくに、食料自給率が38%(カロリーベース)と低いわが国は、フードチェーンとその情報を大切にする必要があります。

フードチェーンのどこかで不都合や不正が生じると、食べることによって悪影響が生じる食中毒などの食性病害が発生します。食性病害の未然防止、拡大防止、ならびに再発防止は、フードチェーンの関係者全員の願いであり、一年中、欠かすことのない努力が続けられています。

食品の表示は消費者が食品を購入するとき、食品の内容を正しく理解し、選択したり、安全性を確保したりする上で重要な情報源となっています。また、農場から食卓までの全ての関係者に当該食品の情報が正確に伝達されるためにも、食品の表示は貢献しています。万一、事故が生じた場合には、被害の拡大防止、製品回収、その原因の究明、再発防止などの措置を迅速かつ的確に行うための手がかりとなります。

食品表示は、製造・加工業者、輸入業者、販売業者など、食品の取扱い・流通に関わるすべての方に義務づけられています。業者間の取引であろうとも、容器包装、送り状、納品書、規格書等に表示し、正確に情報を伝達しなければなりません。表示の根拠となる書類やデータ等は、整備・保存する必要があります。

2)食品表示の仕組み

表1には、わが国の食品表示に関係する主な法律を示しています。食品表示の具体的な取り扱いは、内閣府令「食品表示基準」に示されており、改正を繰り返しながら、運用されています。

食品表示基準によって定められた表示事項のうち、食品の安全性に関係する表示事項が、別の内閣府令「食品表示法第6条第8項に規定するアレルゲン、消費期限、食品を安全に摂取するために加熱を要するかどうかの別その他の食品を摂取する際の安全性に重要な影響を及ぼす事項等を定める内閣府令」 で、より具体的に定められています。

 食品の安全性に関わる表示事項として、以下の項目が示されています。

①名称、②アレルゲン、③消費期限又は賞味期限、④保存の方法、⑤加熱の必要性、⑥生食用であるかないかの別、⑦指定成分等含有食品に関する事項。

指定成分とは食品衛生法により、特別の注意を必要とするとされているコレウス・フォルスコリーなどを指しています。これらの表示事項について誤表示や欠落があった製品について白主回収を行う場合にも、行政機関への届出が義務付けられています。

図3は、東京駅で購入した弁当についていたラベルです。Codexの食品衛生の一般原則では、図2のように適正衛生規範(GHP)により食品の衛生を確保し、その上でHACCPシステムの適用により重要管理点を確実に管理するとされています。

わが国では、食品衛生法によりHACCPに沿った食品衛生が制度化されています。食品取り扱いの良い環境を確保し、良い原材料を入手し、食品衛生のトレーニングを受けた方が食品の取扱いを担当することで安全性の確保が達成されます。ラベルに表示された内容と実際の内容が異なると食中毒の発生を招きます。また、フードチェーンへの信頼性を失わせることになります。

2023年9月には、広域にわたり554人の食中毒患者を発生させた駅弁による食中毒が起こりました(第116話)。正確な記録もないようで、原因として衛生管理の不備が疑われています。表面的に食中毒や品質事故にならなくても、衛生管理の基本を理解し、徹底し、正確な食品表示を行いましょう。わが国では、各種の記録を残すことは努力義務に留められています。万一の不都合に備え、食中毒などの拡大防止、再発防止のためにも記録は必ず整理して、食品の表示と整合性を確認し、保存すべきです。

3)機能性を表示できる食品の制度

 表1に示しましたように、薬機法は食品に医薬品的な効能・効果を表示することを禁止しています。例外的に健康増進法では保健機能食品として、国が定めた安全性や有効性に関する基準に従って、食品の機能を表示できる食品を認めています。保健機能食品には「特定保健用食品」「栄養機能食品」及び「機能性表示食品」の3種類です。

健康増進法では図4のように、乳児、妊産婦、病者等の健康維持に適する食品に「特別用途食品」の表示を認めています。図4のように「持定保健用食品」は、「特別用途食品」にも該当します。保健機能食品以外の一般食品には、食品の機能を表示することはできません。

 「機能性表示食品」は、疾病に罹患していない者に対し、事業者の責任において、機能性関与成分により特定の保健の目的が期待できる旨を、科学的根拠に基づいて表示した食品です。事業者が、国の定めた一定のルールに基づき安全性や機能性に関する評価を行うとともに、生産・製造、品質の管理の体制、健康被害の情報収集体制を整え、商品の販売日の60日前までに消費者庁に届け出る必要があります。

 機能性表示の範囲は、疾病に罹患していない者の健康の維持及び増進に役立つ旨、または適する旨の表示に限られており、疾病の治療や予防を目的とするような表示・表現は認められません。

 図5は、問題になっている紅麹サプリの1種であるコレステヘルプaの裏面の表示です。

持病をお持ちで、紅麹サプリを摂取され、体調不良になられた方もいらっしゃるようです。機能性表示食品の摂取対象範囲外の方のようです。

機能性表示食品の制度自体に問題があるとの批判も報道されています。一方で、食品としての衛生管理・品質管理に問題があったのではないかと報道されています。早急な原因の解明が必要です。機能性表示食品も食品であり、法律の遵守と、正確な記録を含む衛生管理の徹底が望まれます。国も今後の機能性表示食品等の取り扱いについて、参考文献3)のように検討を始めています。

今回は、食品表示の概要と機能性表示食品を取り上げました。人類が集団で暮らし始め、やがて地球全体に移動するにつれ、食品の種類や品質を理解することは難しくなって行きました。食品表示が必要になり、安全性に関する情報だけではなく、品質や調理法、保存法に関する情報などの情報も必要とされるようになりました。今後は、さらに品質保証に関する情報や万一のリコールのための情報も求められると思われます。

 食品表示は、電子化の方向に進むと思われます。スマートフォーンなどを使って、各自が必要とする各食品の情報を読み取ることになりそうです。複雑化する、消費者や小売業者などの要求を満足させるための合意形成が必要です。

 わが国の食料自給率は高くはありませんが食品表示制度は、Codexと一致してない項目もあります。食物アレルゲンの表示などは、早急に整合性を取る必要があります。国際的な食品表示のあり方に関しても、国民の関心を高める必要があるのではないでしょうか。

参考文献:

1)消費者庁:知っておきたい食品の表示(令和6年4月版・消費者向け)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/pamphlets/assets/food_labeling_cms202_240405_01.pdf

2)消費者庁:早わかり食品表示ガイド(令和6年4月版・事業者向け)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/pamphlets/assets/food_labeling_cms202_240401_02.pdf

3)消費者庁:第1回 機能性表示食品を巡る検討会資料、2024年4月19日

https://www.caa.go.jp/notice/other/caution_001/review_meeting_001/meeting_001