home食品衛生コラム食品と微生物とビタミン愛第11話 ノロウイルス対策は社会全体で

第11話 ノロウイルス対策は社会全体で

2015.02.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 ノロウイルスは、小さな丸いウイルスです(図1、第2話参照)。33.333個を直線上にならべても約1mmにしかなりません。ヒトには、嘔吐、下痢などの急性胃腸炎症状を起こさせます。健常な成人であれば多くの場合、数日後には回復します。注意すべきは、高齢者や若齢者、あるいは病気を持つ人達です。これらのハイリスクグループと呼ばれている人達が感染すると重症化する場合があります。強い吐き気や嘔吐を伴うため、窒息等にも要注意です。

感染経路は経口であり、増殖の場である小腸上皮細胞に1つのノロウイルスでも到達できれば、増殖が始まる可能性があります。不顕性感染と呼ばれる症状が出ないノロウイルス保持者になる場合もあります。

 

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感染者の糞便・吐物およびこれらに直接または間接的に汚染された物品類、食品類が感染源となります。水道の蛇口、ドアのノブ、共通タオルが仲立ちとなることもあります。ノロウイルスは比重が軽いため、空気が仲立ちとなってヒトからヒトへの感染することもあります。ノロウイルスが飛沫感染、あるいは比較的狭い空間などでの空気感染によって感染拡大したとの報告もあります。この場合の空気感染とは、結核のような広範な空気感染(飛沫核感染)ではなく、ノロウイルスが軽いことから周辺に散らばるような塵埃感染という表現の方が適切であると思われます。

 

○ 強い感染力!

寒い時期にも流行する感染性胃腸炎には、ロタウイルスやサポウイルスなど他のウイルスによるものもありますが、多くの患者や社会的混乱をもたらすウイルスはノロウイルスです。寒くない時期にもノロウイルスはヒト感染しますが、疫学的には寒くて乾燥する時期に患者数は多くなることが観察されています。

2014年1月に、浜松の小学校の給食が原因となり、1271人がノロウイルスによる食中毒を起こしている。原因食品は食パンでした。食パン工場で従業員からのノロウイルス汚染が原因とされ、加熱食品でもノロウイルス食中毒の原因となることが再認識されました。既に、2003年には北海道厚岸町の学校給食に出されたキナ粉ネジリパンを原因食品とするノロウイルス食中毒が起こっていました。ノロウイルスは、加熱で死滅しますが、これらの例では、加熱後のパンに従業員からノロウイルスが移行したと推測されています。体調不良の従業員はおらず、不顕性感染か感染後に回復しノロウイルスを排出していたのでしょう。パンには微量のノロウイルスが移行し、多くの小学生の小腸に到達し、食中毒を起こしたと考えられています。

2006年にはホテルのパーティの参加者が、おう吐し、その処理が適切でなかったために、その後、そこを通過した人達が集団感染した事例も知られています。残ったノロウイルスが漂い、吸引され、小腸に達して増殖したものと推測されています。

 

○ 予防は社会全体の責任

ノロウイルスのワクチンや治療薬は開発されていません。研究が進まない理由の1つとして、ノロウイルスの研究用の培養細胞が樹立されていないことがあります。ノロウイルスはヒトの小腸上皮細胞でしか増殖しません。多くのヒトが迷惑し、社会的混乱をもたらしているノロウイルス対策用の培養細胞を樹立できればノーベル賞ものだと思われます。遺伝子を利用した検査は開発されていますが、感染力があるのか、不活性化されたノロウイルスなのか判定はできません。予防策は、国民全員の清潔な暮らし、特に手洗いの励行と食品衛生の徹底です。食品取扱い施設では、ノロウイルス対策の徹底が必要です。しかし、インフルエンザ対策と同じで、社会全体でノロウイルス対策に取り組まないと効果は限定的なものに終始してしまいます(図2)。

 

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食品取扱い施設には、体調不良者やノロウイルスの保有者は近づけない衛生管理が行われています。一般の従業員であろうが、工場長であろうが出入り禁止です。食品取扱い施設ではノロウイルスはいなくても、一歩外に出るとノロウイルスだらけでは困ってしまいます。コンビニやレストランに来たお客さんが、おう吐した場合は、ノロウイルスの飛散を心配して店を休業にするべきなのでしょうか?

インフルエンザ対策と同じように、社会全体で感染症としてノロウイルス対策に取り組むべきですね。他人への思いやりは、ビタミン愛として増やしましょう。ノロウイルスは、小腸で増やさないようにしましょう。

 

【参考文献】

Aron J. Hall,et.al.,Foodborne Norovirus Outbreaks — United States, 2009–2012,,MMWR,63,1-5(2014).

 

厚生労働省、ノロウイルスに関するQ&A、(最終改定:平成26年11月19日)

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html

 

東京都健康安全研究センター、感染性胃腸炎(ノロウイルスを中心に、2014年9月25日)

http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/gastro/