home食品衛生コラム我が国における食品の品質衛生管理のすがた第12回 我が国における食品の品質衛生管理のすがた

第12回 我が国における食品の品質衛生管理のすがた

2015.03.15

J・FSD㈱ 池亀公和

池亀 公和先生の略歴

 いよいよこのコラムも最終回となりました。「我が国における食品の品質衛生管理のすがた」と題して食品衛生及び品質管理の我が国の状況について、歴史的な観点又は海外との比較などをまじえ私の考えや思いを述べてまいりました。

 最近もビニール片や鉄片の混入などで日本中がというよりマスコミが大騒ぎをしていましたが、我が国における食品中の異物に対する感受性は際立って高いのも気になるところです。以前、韓国のKFDA(日本の厚生労働省にあたる)の方に、韓国で購入した食品に髪の毛が入っていたら韓国の方たちはどうするでしょうかと聞くと、「たいていの人はその髪の毛をつまんで捨てるだけです」と答えてくれました。

 

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 我が国においても20年ほど前に、ある地方においてそれに近い状況があったように記憶しています。つまり、ある地方のスーパーマーケットに行ってクレームはどのくらいありますかという問いに「そうですね4,5年前にあったかと思いますよ」などの返事が返ってきたのです。

 つまりそれは、その当時の製品に問題がなかったということではなく消費者自体が些細な異物を苦情として店に訴えることがなかったことだと思うのです。

今ではどこの食品メーカーも異物混入には非常に注意を払っていますが、それでもなかなか減少しないのは、消費者がますます異物など食品の些細な異常に敏感になっていることも考えられます。

 最近では、某コンビニエンスストアーで買った「焼き貝ひも」から白い真珠が出てきたという内容の『Twitter』が話題となりさっそくマスコミが取り上げていました。原因は貝類の特性として、ホタテガイなどではまれに外とう膜と呼ばれる部分に真珠状の核をつくり、白い粒として付着している場合があるらしいのですが、さすがに苦情として扱われるというよりも笑い話になっています。一方よく苦情になっているのがスライス肉に含まれるやはり小さな白い軟骨の塊です。同様な異物でもその人が不快と感じれば苦情になり興味深ければ苦情にならないのですね。

 今後、我が国における食品事業者についてHACCPが義務化されるといわれている中、食品事業者が最も注意を払っているのが異物混入であるということについては少しフォーカスのずれを感じますが、我が国の食品製造業者の多くはそれらの状況を真摯に受け止めて、色々な対策や仕組みを取り入れるなどその努力はコスト面だけでも大変な負担となっているようです。

そしてその結果多くの食材が廃棄されていることも大変大きな問題になっています。

 

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農水省の調査では本来食べられるのに廃棄されているもの、いわゆる「食品ロス」は、年間約500~800万トンになると推計(平成22年度推計)しています。これは、世界全体の年間食糧援助量400万トン(2011年)を超えており、2004年ノーベル平和賞を受賞した、ケニアの副環境大臣ワンガリ・マータイ氏(2011年9月25日、ガンのためケニアの首都ナイロビの病院で死去)が世界に広げようとしていた「MOTTAINAI」という言葉の裏で残念な結果といえます。

 農林水産省による、食品ロス削減等総合対策事業の一環として、一般社団法人日本有機資源協会ではフードチェーンに関わる食品製造業・食品卸売業・食品小売業の各業界団体から推薦された企業が参加し「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」を立ち上げ平成24年から検討をしています。

食品産業における食品ロス発生の原因となりうる商慣習についてフードチェーン全体で話し合い、解決に向けた検討を行っており、食品製造業者にとって、食品廃棄物を計量し、農水省による「主な業種の発生抑制の目標値の例【H24.4~H26.3】」の努力目標値を参考にしながら、食品ロスの実態や削減目標を明確にして、食品ロスの削減に向けて社内意識を向上させることが大切なことであるとしています。

 

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  2011年、国際連合食糧農業機関(FAO)は、世界の生産量の3分の1にあたる13億トンの食料が毎年廃棄されているとの調査結果を公表し、食品ロスが相当量に上ることが示されたことは、我が国だけのことではないということですが、少なくとも我が国においては「もったいない」という意味をもう少し理解し直す必要があるのかもしれませんね。

 そして我々が日々購入する食品についても適切な食品評価のもと「もったいない」という気持ちで、世界に先駆けて食品ロスを抑制することが大切なことでしょう。

 消費者庁による新たな食品表示法が来月4月1日から施行されますが、私もこれからは食品の表示に書かれている消費期限や賞味期限だけに頼らず、臭いや色などを見てから食べるかどうかの判断をすることにします。

 以上ここまでこのコラムを読んでいただき、ありがとうございました。皆様に感謝いたします。