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第11回 我が国における食品の品質衛生管理のすがた

2015.02.15

J・FSD㈱ 池亀公和

池亀 公和先生の略歴

前回のコラムで取り上げましたように、いよいよ食品等事業者を対象に従来型の衛生管理手法か、HACCPによる管理かを選択することになった。

 従来型とはPRPを実施していくことであり、我が国の多くの食品事業者はすでに実施しているという前提である。そして、さらにHACCPを導入する事業者に対しては、支援法により国がフォローしますというのが簡単に言えば今回の趣旨のようだ。

実際には「食品製造におけるHACCPによる工程管理の普及のための検討会」において、25年の9月3日から27年1月23日まで6回にわたり各専門家らによる討論を行っており、現場における現状の把握も含め、内容のある討論会であったように思う。

たとえば定義の再確認として、「HACCPというのは、A system which identifies, evaluates, and controls hazards witch are significant for food safetyということで、食品安全にとって重要なsignificantなハザードを特定して評価して、それをコントロールするためのシステムであり、これはリスクマネジメントの一つツールです。」としておき、討論の中ではHACCPのフレキシビリティーという問題を提起している。

つまり、HACCPというのは、色々な業種や環境、文化などにより一括した形にはならないということで、CCPが存在しないこともあり、優良な取り扱い(グットプラクティス)をやることによってCCPのモニタリングに置き換えることもできるとしている。

 

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しかしながら、ECで現場を見てきた専門家によれば、ECにおいてもそのフレキビリティーについてはどのような部分でどのような柔軟性が許されるといった明確ものはなかったようだ。

ところが、厚生労働省から出たガイドラインのト畜・食肉編では、ト畜工程のトリミングがCCPとなっており、ガイドラインであることからここをCCPとするべきというような内容となっている。今回の趣旨の中でどれだけフレキシビリティーが許されるのかは今後の経緯を見ていかなければわからないが、この工程を知る限りではとてもCCPで管理するのは無駄な作業が増えるだけであり蛇足といった感がする。

このような多くの問題がこれからの数年間で解決されなければ、今後のHACCP義務化は難しいものとなるだろう。

また、農水省が進めている日本版HACCPともいえる食品安全管理の規格とその認証スキームの立ち上げについては、前回のコラムでも書いたように大変期待したいものだ。

国際展開されている食品安全規格のほとんどが、我が国よりはるかに食中毒死亡者が多い欧米諸国によって策定・運用されている。

FSSC22000はオランダの団体が運営、SQFは豪州で企画・開発され、米国の流通団体がライセンスを取得、運用している。

 

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取引において、ばらばらな規格の認証や取引先ごとの監査に対応しなければならないとなれば、企業の負担は大きい。こうした弊害を取り除くため、GFSI(国際食品安全イニシアチブ)では、規格の同等性を審査(ベンチマーク)し、規格の収束を進めている。

日本版食品安全管理の規格もGFSI承認を念頭に置いているようだ。

食品安全に関する科学的知見は、世界共通のものだが、それを現場にどう適用するかは、気候・風土、文化、社会的条件など、それぞれの国の背景によって違ってくる。当然、安全な食品の提供に到達する道筋も違う。外国でつくられた規格の場合、言葉(言語、用語の解釈)の問題はもちろん、要求項目の背景が日本事情と異なり理解しにくいこともある。

日本版食品安全管理の規格は、食品企業の信頼性向上を図るため食品関係事業者と同省が協働で構築した「FCP工場監査項目」も参考にし、HACCPやマネジメントシステム要求項目も追加し肉付けしていくということだ。

我が国の消費者を守る食品の品質レベルはかなり高いといえるが、それを作っている食品事業者を守るレベルは必ずしも高いとは言えない。くれぐれも世界の中の日本そしてその中の中小企業の現状をよく理解した上での作業とし、専門家による討論会の結果についても事務方ではよくこれらを取り入れていただきたい。