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第88話 夏のコールドチェーンの維持

2021.07.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2021/7/1 update

  

 

 

 7月になりました。今年の夏は暑さ対策に加えて、コロナ禍、東京オリンピック・パラリンピックへの対策も必要となります。図1は、米国アリゾナ州からの今年の夏場の電力供給に関係する報告です。「電気料金が払えない場合の電気の供給停止は行わない」と報告されています。暑さから人命を保護するために冷房が必要ですが、食品安全の確保も電気の供給継続の大事な理由の一つであることが述べられています。

 フードチェーンの大事な構成要素であるコールドチェーンについて考えてみましょう。

 

 

1)最近の話題

 表1は、米国各州の高温対策としての電力供給の様子です。表1に名前のない各州も、国家気象局の「極端な気象に関する勧告」が出された場合は電力の供給を続けます。表1の写真(温度表示は102°F、39℃)は、1999年にアリゾナ州フェニックスを訪問した時の様子です。早朝から移動する予定でしたが、ホテルで足止めされました。気温が、早朝から100°Fを超えたので、州政府から戸外に出ないように勧告が出されたのでした。

 図2は、今年のわが国の出来事です。新型コロナウイルスのワクチンが、温度管理の失敗により廃棄せざるを得なくなったとの報道です。感染症予防対策として、ワクチンは有効な手段です。以前から、低温管理ができない場合の品質管理の改善が、必要とされていました。

 

 

わが国のようにコールドチェーンが整備された国であっても図2にように温度上昇が起こっています。電力の確保のみならず、うっかりミスなどの防止が必要です。

わが国のコールドチェーンの仕組みを東南アジアなどの発展途上国に移転・拡大させる試みもあるようです。まず、電力の安定供給から着手する必要があると思われます。

 

 

図3には、2018年と2019年に起きたわが国の大規模かつ長期間の停電例を示しました。また、冷涼である5月の北海道オホーツクでも2019年には39.5℃まで気温が高くなったことがあることを示しています。

  近年、わが国でも夏場になると熱中症が増え、図4のように救急車で運ばれる方や、死亡される方も多くなっています。フードチェーンにおけるコールドチェーンの役割、特に安全性や品質確保に役割がより需要になっています。コロナ禍中での東京オリンピック・パラリンピックという難題を抱えながら、コールドチェーンを維持して行く必要があります。

 


 

2)コールドチェーンも大切に

食品分野では、原材料の生産から消費まで低温を保ちながら食品の取り扱いを行う仕組みのことです。凍結させない冷蔵や凍結させる冷凍に大別されます。

コールドチェーンの利用により、生鮮食品を含む各種食品の長期間の保存や地球規模の広域輸送もできるようになりました。ワイン等の温度変化により品質が低下し易い食品の輸送や貯蔵も行われています。フードチェーンと同様にコールドチェーンの言葉にもチェーンが含まれています。温度が上昇してしまった食品を再度冷却すると、もはやコールドチェーンとは呼べません。

 


 

図5は、WHOの提唱する「安全に食べるための5つの鍵」です。4つ目の鍵の図の中に示されているように5℃から60℃の間の温度域は危険ゾーンです。食品を危険ゾーンに放置しないようにしましょう。加熱食品の冷却も、この危険ゾーンを速やかに通過して5℃以下の低温になるように工夫を行いましょう。

 

 

 表2は、主な食中毒菌の特性を示しています。リステリアやエルシニアは、増殖速度は小さくなりますが、5℃未満でも増殖します。以前、わが国で多くの食中毒事件を引き起こしたE型毒素を作るボツリヌス菌も5℃以下でも増殖可能です。基本的な衛生管理に努めたうえで、コールドチェーンの有効性を十分に発揮させるようにしましょう。衛生管理を手抜きして、コールドチェーンを頼っても効果は発揮できず、最悪の場合は死者を出す食中毒を起こしてしまいます。

 なお、新型コロナウイルスやノロウイルスなどは、常温よりもコールドチェーンの低温下では、不活性化に要する時間は長くなります。

コールドチェーンは、どこの段階でも温度管理に失敗してしまうと消費者に安全で、高品質な食品を届けられなくなります。

うっかりミスや天候不順によってコールドチェーンで管理をされた食品が全て廃棄になってしまった、という例もあります。前述のリステリアの増殖の疑いから、リコールされ廃棄処分される例もあります。気温が上昇する夏は、特に注意が必要です。

 氷室として天然の氷を使っていた時代ではなく、現在は電気に頼ったコールドチェーンが使用されています。地球環境に悪影響を及ぼす発電は避けるべきです。コールドチェーンの利用も地球にやさしい技術になるように努力して行きましょう。

 

文献:

1)椎名武夫:食品の物流・品質管理技術の発展と将来展望、日本食生活学会誌,20, 183-190(2020) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jisdh/30/4/30_183/_pdf/-char/ja

2)農林水産省:コールドチェーン食品の生産・経営における新型コロナウイルスの予防・コントロールに関する技術ガイドライン

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/hq/i-4/attach/pdf/china_info_210215-13.pdf

3)農林水産省:食品安全に関するリスクプロファイルシート、リステリア・モノサイトゲネス

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055260.html

4)同上、エルシニア・エンテロコリチカ

https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/attach/pdf/hazard_microbio-5.pdf