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第80話 加熱は新型コロナウイルス対策にも有効

2020.11.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2021/11/1 update

 

  新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)は、低温や冷凍に耐えますが、加熱には弱く、不活性化することもできます。

図1は、米国で自動車用に開発された急速加熱技術に関する報道記事です。デトロイトの数百名の警官が感染し、彼らと接触を持った1000人以上の警官が隔離され、警察業務を遂行できなくなりました。

自動車メーカー・フォードは、オハイオ州立大学と協力して、自動車の加熱殺菌技術の開発を進めていました。今回は、加熱によるにSARS-CoV-2対策ついて考えてみましょう。



1)加熱によるウイルスの不活性化

 フォードは、車内の温度を急速に上げてウイルスを不活性化する技術を実装した自動車を開発しました。手作業では消毒しにくい隙間に潜むSARS-CoV-2も、車内温度を56℃、15分間で99%不活性化できることを明らかにしました。

 開発した自動車の加熱モードでは、エンジンが通常のアイドリング状態を上回る速度で回転し、車内の温度を急速に高め、93℃まで上昇させます。その状態で15分間経過すると、 SARS-CoV-2の不活性化が終了したことをアラームで知らせるそうです。

 加熱による微生物制御は、大昔から使われている確実性のある手法です。 SARS-CoV-2対策として、エチルアルコールや界面活性剤などへの関心が高まっていますが、加熱手法も忘れずに活用すべきです。


 ウイルスの基本的な構造は,図2のように遺伝情報としての核酸(DNA 、RNA) とそれを保護するカプシドcapsid (殻蛋白)です。 カプシドは多数の構成単位(サブユニット)からできており,螺旋状もしくは多面体の規則正しい配列となっています。 SARS-CoV-2やノロウイルスは多面体で球状となっています。

ウイルスは, SARS-CoV-2 のように、脂質を含むエンベロープと呼ばれる膜で包まれている場合と,ノロウイルスのようにエンベロープを持たないウイルスに分類されます(表1)。



  SARS-CoV-2のようにエンベロープを有するウイルスは、エチルアルコールなどの消毒薬に対して感受性が高く、不活性化され易い特性があります。石鹸などの界面活性剤によってもエンベロープが変性し、不活性化されます。ノロウイルスのようにエンベロープを持たない場合は、一般的に消毒剤に対する抵抗性が強く、次亜塩素酸などの効果を示す消毒剤を選択して使用する必要があります。

 生物は加熱により生理的な障害が起こり、火傷を負い、死に至ります。ウイルスも同様です。食品の微生物制御では、確実な調理加工法として加熱が行われています。



 図3のように人類は、火や熱を使って病気を避けたり、食料を確保したりしてきました。 多くのウイルスは、56℃、30 分間でエンベロープが変性します。ノロウイルスのようにエンベロープを持たないウイルスは,加熱処理に対しても抵抗性を示します。

 特に、ヒトのノロウイルスの場合は、不活性化を判断する試験法が確立されていませんので注意が必要です。感受性を持つ培養細胞が樹立されていないので、不活性化の判定ができないのです。

 厚生労働省は安全率を見込んで、食品の中心部での温度が85℃で90秒間以上となる加熱を推奨しています。都道府県によっては、ノロウイルスの汚染のおそれのある二枚貝などの食品の場合は、中心部が90℃で90秒間以上の加熱調理を推奨している場合もあります。ところで、竹輪やマカロニ(マッケローニ)の中心部はどこでしょうか? この場合の中心部は、温度の上昇が最も遅い部位です。

 A型肝炎ウイルスもエンベロープがないため耐熱性が強く、60℃・60 分間の加熱では不活性化されず、70℃・30 分間、あるいは100℃・5分間の加熱で不活性化されます。 E型肝炎ウイルスも度同様に、強い加熱が必要とされています。



2)加熱による新型コロナウイルスの不活性化について

  SARS-CoV-2は病原性が高いこともあり、直接SARS-CoV-2 を実験に用いて加熱による不活性化の様子を観察した報告はないようです。近縁のSARS-CoVなどの実験例や上記1)に示した経験などから、SARS-CoV-2 の耐熱性は、下記のようにエンベロープを持つウイルスと同程度であると考えられています。

・SARS-CoVについては60℃で30分以上の加熱を行う処理が効果的であることが知られており、SARS-CoV-2は十分な加熱によって死滅する。
https://www.fsai.ie/faq/coronavirus.html

・コロナウイルスは熱に不安定で、通常の加熱調理温度(70℃)に感受性があり、一般的な衛生対策同様、清潔、二次汚染防止、適温調理、即冷却に従うことが重要です。
https://www.kenko-kenbi.or.jp/science-center/foods/topics-foods/20052701.html

・SARS-CoV-2は、37℃では1日たっても存在していました。温度を56℃にすると、30分以内に検出できなくなったということです。さらに、70℃では5分以内に検出できなくなったということで、温度が上がるほど短時間で死滅する傾向がみられたということです。
https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2020/05/0521.html

・ 60℃で30分間もしくは100℃で1分間加熱すると、ウイルスは死滅する。
https://www.kitasato-u.ac.jp/vmas/download/coronavirus_200220lecture.pdf

3)乾熱と湿熱

  加熱によりSARS-CoV-2も不活性化できますが、その場所の水分が不活性化効果に影響を与えます。水分が少ない状況での加熱を乾熱と呼び、熱水または水蒸気を用いた加熱を湿熱と呼んでいます。

図1で紹介した自動車の加熱殺菌はエンジンの熱を与えた空気を車内に循環させてしますので乾熱の利用です。93℃で15分間の熱処理が必要です。
  上記の「2)加熱による新型コロナウイルスの不活性化について」で紹介しました、60℃で30分間などの不活性化熱処理は湿熱の利用だと思われます。乾熱処理よりも湿熱処理の方が、低い温度で短い時間で不活性化効果を得ることができます。

 加熱する事によりや蛋白質や遺伝子を熱変性させ、SARS-CoV-2を不活性化します。湿熱を用いる方が早くSARS-CoV-2に熱が伝わります。料理をするときに、ただ焼くよりも蒸し焼きにするほうが、まんべんなく、早く熱が通ります。また、我々はドライヤーで100℃くらいの熱風を使っても大丈夫ですが、熱湯だとすぐに火傷をしてしまいます。



 ウイルスを不活性化する時には、加熱対象によって乾熱を使うか、湿熱を使うかを選んでください。濡らしても良い物しか、湿熱処理は使えません。また、加熱に弱い対象物は消毒剤によるSARS-CoV-2対策を行ってください。微生物制御の原理は図4のように物理的、生物的、化学的の3つに分けることもできますが、具体的な対応手法はそれぞれに沢山あります。実際には、さらにそれらを組み合わせて実施されます。

 SARS-CoV-2は変異を起こしやすいRNAウイルスであり、他の病原体もいます。微生物制御が人に健康被害を及ぼすことは避けるべきです。食品では・色味・香りを含む品質も大切です。各種手法を組み合わせて、工夫してSARS-CoV-2などの対策を行ってください。

参考文献:

1)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
2)国際食品微生物規格委員会(ICMSF): Opinion on SARS-CoV-2 and its relationship to foodsafety、2020年9月3日
https://www.icmsf.org/wp-content/uploads/2020/09/ICMSF2020-Letterhead-COVID-19-opinion-final-03-Sept-2020.BF_.pdf
3)山口県:消毒・滅菌の手引き「感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き」
http://kanpoken.pref.yamaguchi.lg.jp/jyoho/page5/syoudoku_4.html