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第77話 ペスト菌や炭疽菌なども要注意

2020.08.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

  

  図1は食中毒の原因となる細菌の電子顕微鏡写真です。新型コロナウィルス感染症への対策の実施が、細菌性食中毒の未然防止にも良い影響を与えているようです。夏を迎えると気温や湿度の上昇や体力の消耗により、食中毒菌への感受性も高くなってきます。新型コロナウィルス対策に加えて熱中症対策も必要であり、それらへの疲れもあり、一層体力も気力も低下しがちです。世界各地から、食中毒菌を含む病原細菌による健康被害や注意喚起に関する情報が発信されています。

 

1)ペスト菌と炭疽菌

 わが国では、6月26日に埼玉県で学校給食による食中毒が発生しました。患者数は、3,453人にもなりました。原因食品は海藻サラダ、原因菌は病原大腸菌O7でした。7月8日には、米子の保育園の給食による食中毒が発生しました。患者数は44名となり、サルモネラ属菌が検出されています。7月10日には、滋賀刑務所で、患者数が120人の集団食中毒が発生しました。受刑者が調理した給食が原因食品とされ、原因菌は調査中です。

 

 

  図2のようにモンゴルでは、7月14日に15才の少年が腺ペストで死亡しています。 原因菌は、図3に示すペスト菌(第63話参照)です。マーモットを食べて発症したと伝えられています。モンゴルや隣国中国では最近、腺ペストの感染例が報告されています。この少年との接触者が隔離され、抗生物質による治療を受けていると伝えられています。5つの地域で、封鎖措置が取られています。

 モンゴル政府が、マーモットに近寄ったり、その肉を食べたりしないよう呼びかけているそうです。ロシア東部シベリア地方でも、マーモットの狩猟や食用を避けるよう警告が出されているそうです。

 

 

  ロシアでは、以前から気温の上昇による永久凍土の溶解が問題になっていました。図4は、2016年8月の記事です。炭疽菌(図3)に感染して死亡したトナカイが永久凍土から溶け出して、住民の集団感染の原因になったと伝えられています。

今後の懸念は、温暖化によって永久凍土が解け続け、凍結されていた病原体が今回と同じように溶け出すことです。

 本年6月20日、ロシアのサハ共和国ベルホヤンスクで、気温が38℃にも達し、北極圏での過去最高気温を記録したと報告されています。永久凍土に封じ込められていた病原体が、溶け出している可能性があります。

  

2)人間は従属栄養動物

 

 人間は図5のように、地球で生きている生物です。食べないと生きて行けない従属栄養動物です。安全で十分量の食品を安定的に得るには、生態学的な地球の健康維持にも貢献する必要があります。個人あるいは人間集団の生命や生活活動が、環境の構成因子と動的な平衡状態を保っている状態が人間にとって良好でなければ困ります。食料自給率の低い我が国にとって,頭の痛い課題が山積しています。変化する環境の中で「諸行無常」を乗り越える知恵と実用化が、間に合って欲しいものです。

 

参考文献:

1) 北里英郎、原 和矢、中村正樹、片岡 巌:ウイルス・細菌の図鑑、技術評論社(2016)

2) World Meteorological Organization: Reported new record temperature of 38°C north of Arctic Circle,23 June 2020

https://public.wmo.int/en/media/news/reported-new-record-temperature-of-38%C2%B0c-north-of-arctic-circle