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第71話 EUでは貝の生食でノロウイルス食中毒

2020.02.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 

中国でコロナウイルスによる新型肺炎の流行が表面化し,過去のSAASやMAASの悪夢が再現されるのかと心配されています。一方,欧州EUでは,昨年末からフランスを始めとして,ノロウイルス食中毒の報告が相次いでいます。どうやら,図1~3のように,フランス産の貝類が原因になっているようです。EUでも海に近いところで暮らしている方々は,生の貝類を食べることに抵抗は少ないようです。レモンやライムの絞り汁をかければ大丈夫と思っている方もいるようです。ノロウイルス対策について考えてみましょう。



1)EUのノロウイルス食中毒

 

1月18日現在で,フランスでは1,033人が発症し、21人が病院に入院しているようです。フランスの衛生当局は,2019年12月初旬以来、生の貝類、主にカキの消費に関連すると疑われる179件の集団食中毒の報告を受けていました。179件の報告のうち138件は、2019年12月23日以降に発生し、12月25日から27日にかけてピークに達していました。下痢や嘔吐、潜伏時間などの症状は、ノロウイルス感染の症状と一致していました。患者便検査により、これらのウイルスの存在が確認されました。
原因は,貝類の生食と推定されています。イタリアからも、フランスからの生きたカキに関連したノロウイルス食中毒の発生が報告されています。オランダでの患者の発生はアムステルダム地域に限定されているようです。

ノロウイルス汚染の恐れからフランス産のカキ、ムール貝、ザルガイなどの貝類の回収リコールは,ベルギー、ルクセンブルク、スイス、香港、シンガポールなどで行われています。報道によれは、我が国を含むオーストリア、デンマーク、中国、チェコ共和国、フィンランド、ドイツ、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スペイン、ウクライナにも出荷されているようです。フランス政府は,7つの地域で合計23の貝類養殖場を閉鎖しており,関連企業が影響を受けています。有名な観光地であるモンサンミシェル地区も貝類の採取が中止されています。

最近になって,デンマークとスウェーデンも、フランスの貝類に関連するノロウイルス食中毒の発生を報告しています。デンマークの少なくとも180人が今年になってから発症しているそうです。スウェーデンでは,70人が発症していますが,一部の患者はスウェーデンのカキを食べた後に発症したと考えられています。



2)ノロウイルス食中毒対策について

 

食中毒予防3原則「つけない」「増やさない」「やっつける(加熱する)」は,細菌性食中毒予防には役に立ちますが、ノロウイルスは食品中で増殖しませんが,100個以下といわれるほどの少量で発症するため不十分です。「持ちこまない」「広げない」「加熱する」「つけない」などの心掛けが必要となります。理解しておくべきことに,図4の棒グラフ赤色の部分である「人から人」いわゆるヒトーヒト感染が多いことです。

EUの貝類による食中毒は人の消化管に到達したノロウイルスが増殖し,トイレ等を経て,海にたどり着き,貝類に取り込まれたことと,その貝類を生食したことに原因があります。貝類を汚染したノロウイルスは,ヒトーヒト感染の可能性に由来する可能性も高いことを忘れてはなりません。公衆衛生的な対策の上に,食品衛生対策を重ねて実施することが必要です。

表1と図5に示したように、ノロウイルスはとても小さく、見つけることは困難です。また,乾燥食品中でも感染活性を長らく保持します。冷蔵や冷凍されるとさらに長い間、感染活性を保持します。さらに、対策を難しくしているのがノロウイルスに感染し、保持しているのに症状を示さない不顕性感染者がいることです。

食品取扱い施設でも,不顕性感染者を完全に排除することは不可能ですので,「健康管理」「手洗い」「環境の清浄」「汚物の処理」「清潔な食品の取扱い」などの徹底に努めでいただくことが必要です。



参考文献:

 

1)食品安全員会:ノロウイルスによる食中毒にご注意ください,2018年11月20日
https://www.fsc.go.jp/sonota/e1_norovirus.html

2)厚生労働省:感染性胃腸炎(特にノロウイルス)について,2020年1月21日
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/norovirus/

3)西尾治:生食用カキおよびノロウイルス食中毒における衛生行政史,月刊フードケミカル ,35(10), 53-60(2019)