home食品衛生コラム食品と微生物とビタミン愛第68話 サルモネラ属菌食中毒も忘れずに

第68話 サルモネラ属菌食中毒も忘れずに

2019.11.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/


世界各地で図1のように、サルモネラ属菌は食中毒を起こし、さらに大量の食品回収・リコールの原因となっています。国内でも,10月2日に長野県の総菜工場が,サルモネラ属菌による食中毒を発生させ営業禁止になっています。我が国では図2のように,1990年代に比べてサルモネラ属菌による食中毒がかなり少なくなりました。1996年(平成8年)の患者数は16,000人を上回っていました。死者は3人でした。2018年(平成30年)の患者数は640人,死者は0人でしたが,現在もサルモネラ属菌は、生き残っていますので対策を忘れると困ります。

図1に亀の写真がありますが、ペットとして飼育されている動物から人にサルモネラ属菌が移行して人が発症する場合もあります。米国を困らせていると記事に書かれているSalmonella Oranienburgは、1999年に我が国で全国的に乾燥イカ菓子を媒介として1500人もの食中毒を起こしたサルモネラ属菌です。今回は、サルモネラ属菌対策について、考察してみましょう。

 

1)サルモネラ属菌とは


 1885年に、サルモネラ(Salmonella)は、SalmonとSmithによって発見されています。 通性嫌気性のグラム陰性桿菌で腸内細菌科に属します。S.entricaS.bongoriの2菌種に分類されますが、類似の性質を示す菌種が多いことから血清学的にO抗原とH抗原の反応性により約2,600種類に分類されます。

 これらの菌種を食品衛生行政では「サルモネラ属菌」と総称しています。ヒトから分離されるサルモネラの多くはS.entricaの亜種Iに属し, これに血清型分類に由来する名で区別した菌種名が広く使用されています。血清型を基にした菌名はイタリック体+ゴシック体で示されます。Salmonella Typhimurium(ST,ネズミチフス菌)は略称で,正式名は,Salmonella entroca subspecies entrica serovar Typhimuriumです。 サルモネラ属菌のうち数十種類が、人に食中毒を引き起こすといわれています。なかでも古くから食中毒菌として知られているのが、STやS. Enteritidis(SE,ゲルトネル菌)です。 サルモネラ属菌による疾病は、①腸チフス型、②急性胃腸炎型、③敗血症型に分類されますが、ここ では食中毒として発生する頻度が多いと思われる、急性胃腸炎型対策を中心に考察してみましょう。サルモネラ属菌の細菌学的な特徴を表1に、その食中毒の特徴を図3に示しました。

 サルモネラ属菌は、多くの動物の腸に生息しています。無症状で本菌を保持している人もいます。腸チフスメアリーの話は有名です。昔、米国で家政婦をしていたメアリーさんの行く先々で腸チフスが流行しました。予防医学や健康保菌者の概念のない時代でした。法的処置もできないまま、メアリーさんは脳溢血で亡くなり、腸チフスも発生しなくなりました。

サルモネラ属菌は、環境に広く分布しており、乾燥や低温等にも耐えて生き延びることが知られてい ます。 STやSEが人の腸まで到達すると、腸粘膜に侵入し、腸炎を引き起こします。人が食中毒を発症させる菌数は、実際の事例の調査では1万個以下と考えられ、小児や高齢者の場合はさらに少ない菌数で感染するといわれています。しかし、SEは100個未満の少量でも発症させると推測されています。小児や高齢者の場合は重症化し、死に至ることもあります。

 

2)鶏卵の場合


興味深いことにSEの鶏卵汚染はon eggとin eggの2種類あることが明らかにされています。 鶏卵は母鶏の総排出腔を通って産み落とされるため、糞便と出会うチャンスが多くなります。卵の殻にヒビがあれば、内部への侵入を許してしまいます。サルモネラ属菌は鞭毛を使って移動することもできます。通常、鶏卵は卵選別包装施設(GPセンター)に集められ、殺菌・消毒されます。 母鶏の体内において卵の殻が作られる前に、SEが卵の内部に侵入して汚染してしまう現象がin egg と呼ばれる汚染です。2010年の我が国の調査では、0.0029%の鶏卵にin egg汚染が認められています 。10万個に3個程度ですが、生で鶏卵を食べる場合は、体調等の条件の良い時に新鮮かつ汚れやヒビ のない卵を準備し、清潔に取り扱うべきです。

 

3)食中毒を防ぐために


 食中毒を起こさないためには、図3に示した食品の生産、流通、販売、消費までのフードチェーンの全ての方々が、責任を持って良い仕事や取扱いをバトンタッチでつないで行くことが必要です。サルモネラ属菌は、環境に対する適応性が高いので、油断は禁物です。例えば、ピーナツバター中で長期間生存し多くの死者を出した食中毒を起こしたり、育児用粉乳中で乾燥に耐え、多くの赤ちゃんを苦しめたりしています。加熱等の殺菌にも耐えたり、損傷菌として生残したりすることも知られています。

 SEは少量で発症させる病原性を持つと推定されています。このような病原体の対策は、消費者の自覚と自律が鍵を握ることになります。消費者のすぐ近くにもサルモネラ属菌はいることを忘れずに清潔な暮らしをする必要があります。ペットはサルモネラ属菌を持っている可能性があることも忘れないようにして欲しいものです。

 

参考文献:


1)小久保彌太郎編集:現場で役立つ食品微生物Q&A、第4版、中央法規出版(2016)

2)一色賢司監修:食品安全検定テキスト中級、第2版、中央法規出版(2018)

3)CDC,FDA,USDA:  Foodborne illness source attribution estimates for 2017 for Salmonella, Escherichia coli O157, Listeria monocytogenes, and Campylobacter using multi-year outbreak surveillance data, United States, The Interagency Food Safety Analytics Collaboration (IFSAC), Sep.2019.
http://www.cdc.gov/foodsafety/ifsac/pdf/P19-2017-report-TriAgency-508.pdf

4)宮本敬久:サルモネラの加熱損傷・修復の特性とメカニズム、食科工誌、65(2), 80-86, 2018