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第65話 冷蔵・冷凍と食中毒菌について

2019.08.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 

 


 表1は我が国で発生した主な腸管出血性大腸菌食中毒事件例です。1996年のO157食中毒、いわゆるカイワレ大根騒動では、毎日新鮮な食材を使うという建前で、小学校には冷蔵庫は配備されていませんでした。堺市を中心に限られた範囲で患者の発生が見られました。患者が局在せずに各地から同じ遺伝子を持つO157食中毒が発生した事例も報告されています。 冷蔵や冷凍していても食中毒菌は生き残って食中毒を起こします。 1998年のいくら醤油漬け食中毒 は、冷凍流通させたために広域にわたって被害者を出してしまった例です。今回は、冷蔵・冷凍された場合の食中毒菌の挙動について、新しい知見を紹介します。

 

 

1)冷蔵や冷凍のO157への影響

 

 今日では低温を利用する食品中の微生物制御は、冷蔵・冷凍と呼ばれて日常茶飯事として行われて います。冷蔵・冷凍が我が国では、1970年代から一般家庭でも行えるようになりました。慣れ親しんだ食生活の一手段と思えますが、50年ほどの歴史しかありません。  テキサス工科大学で、7種の志賀毒素産生大腸菌(STEC,、第59および62話参照)を使って実験が行われています。牛ステーキ肉に付着させた7種類のSTECが、冷蔵や冷凍された場合どのくらい生き残るか測定する実験が行われました。

   結果は、図1のように冷蔵でも、冷凍でもO157は生き延びることを示していました。図1はO157の様子ですが、他のSTECも同様の生残結果を示していました。冷蔵(4℃)よりも、冷凍(-18℃)の方が、より長く生き延びると思われます。冷蔵や冷凍により菌体が損傷して、回復や成育が遅れているがSTECもいると思われます。

 

 

2)リステリアやサルモネラ属菌では

 

 冷蔵や冷凍された各種食品が食中毒を起こしたり、製品回収リコールの原因になったりする場合もあります。WGS(全ゲノム解析手法)の活用など、食品安全分野の調査・研究手法の進展により、広域に広がった食中毒患者や原因食品の関係の追求も可能になりました。

   加熱工程を持たず、洗浄・殺菌されて消費される、あるいは冷蔵・冷凍されて消費される野菜・果物は、加熱食品に比べると食中毒制御はより困難です。 この問題に真摯に取り組んでいる米国農務省西部研究センター(カリフォルニア州アルバニー)の研究報告を紹介します。表1のようにリステリアを付着させたブルーベリーをモデル食品として、抗菌剤だけを使うよりも、その後に冷凍処理を追加した方が生残菌数をより少なくできることが判明しています。

   サルモネラ属菌を用いた場合の実験結果は表2の通りです。リステリアの場合と同じように、洗浄・殺菌後、冷凍を行うことで、非加熱生食に伴う食中毒リスクを減らすことが可能になりました。  寄生虫対策では、冷凍処理が有効であることが良く知られています。EUやニューヨーク市などでは、生食する魚介類は冷凍処理を行うことを義務付けています。

   冷蔵や冷凍を他の微生物制御法と組み合わせて、いわゆるハードルを増やして食生活のリスクを減らし、食べる楽しみを増やしていただきたいと願っています。

 


参考文献:


1)高橋俊幸:食衛誌、40,J-231-233(1999)

2) D,Cuellar, et al: Food Protection Trends, 38. 296-304(2019)

3)D.F.Bridges, et al: J.Food Prot., 82, 926-930(2019)