第58話 幸せの紅白なます

2019.01.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 明けまして、おめでとうございます。おせち料理は、楽しまれましたか。図1に示したおせちの中の「紅白なます」は縁起物です。紅色には人参を、白色には大根が使われるのが一般的です。大根と人参のように、地に足をつけて元気に過ごせるようにと幸せを願う気持ちも込められています。人類の食べ物に関する知恵が「紅白なます」にも込められています。新しい年を迎えるに当たって、ご先祖の食生活を振り返り、これからの食生活に活かして行きましょう。

ishiki581.jpg


1)紅白なますの「なます」とは


古代中国では、細切りの生獣肉や生魚を「膾(なます)」と呼んでいました。中国春秋時代(紀元前770年~紀元前221年)を迎えると細切り生の羊肉や牛肉に葱やからし菜などを添え、酢をつけて食べるようになりました。「膾」は、美味しい著名な料理とし知られるようになりました。


表1は、獣肉を生食する有名な料理法です。食べ物として口にするか、否かの考慮点も書いてみました。獣肉を生食する「膾」は、食中毒や寄生虫などの問題から、次第に減少して行ったのではないかと思われます。

 

ishiki582.jpg


 日本に伝わった「なます」は、当初「膾」と書き、細切りの生獣肉の料理を指していました。平安時代(794年~1185年)末期のころ魚肉や野菜を刻んで調味料で和えて食べる料理である「和え物」と同じように扱われるようになりました。イノシシなどの獣肉以外にも魚肉を用いたなますが広まるにつれ、漢字も魚偏の「鱠」が使われるようになりました。


 室町時代(1336年~1573年)以降になるとなますは、酢であえた和え物の事を指すようになり、野菜だけを用いた「精進なます」が作られるようになりました。やがて、おせちにとり入れられている「紅白なます」も登場し、今日まで食べ続けられています。


2)「膾」から「鱠」、そして「なます」へ


 「生」を「酢」で和えるから「なます」と考えている方がおられますが、「膾」が語源のようです。「生」のイノシシ肉を食べるので、生(なま)シシ肉がなまって、「なます」になったとの意見もあるようです。


 我が国でも肉の生食を好む方がいます。2011年には、生の牛肉料理であるユッケを原因食とする食中毒が発生し、5人の尊い命が奪われました。原因菌は、腸管出血性大腸菌O101とO157でした。豚肉や鶏肉でも、食中毒が起きています。


 厚生労働省は、図2のように肉を食べる時には、十分に加熱するように注意を呼び掛けています。ジビエと呼ばれる野生の動物を食べる料理も広まっています。ジビエ料理は、特に加熱を必須とする料理法です。悲しい事例ですが、輸血によるE型肝炎の発症例もあります。加熱が不十分なジビエ料理から由来するE型肝炎ウイルスに感染している方が、献血したことが原因であると推定されています。

 

ishiki583.jpg

 


 「紅白なます」は、おせちの定番メンバーです。現在のおせちは、家庭で作られることは少なくなり、購入するものになってきました。豪華で高価なおせちが登場してきたのは、バブル期(1986年~1991年)です。裕福ではない家庭でもお正月を祝える「紅白なます」の知恵を楽しんで、後世に伝えて行きたいものです。紅白の水引を祝い事に用いるように、新年を「紅白なます」で祝い、美味しくいただきましょう。

 

【参考文献】


1)奥村:日本人の生食嗜好,水の文化,29,4-9(2008)


2)一色(監修):「生食のおいしさとリスク」、株式会社エヌ・ティー・エス(2013)


3)厚生労働省:お肉はよく焼いて食べよう、
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000049964.html