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第41話 少量感染による食中毒に厳重注意!

2017.08.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 厚生労働省が公表した2016(平成28)年の食中毒を、表1に概要としてまとめました。事件数は1,140 件、患者数は約2万人で例年とほぼ同様でした。しかし、死亡者数については14名に増加していました。腸管出血性大腸菌O157による10名が死亡し、植物性自然毒によって4名が死亡していました。各病因物質の事件数と患者数の割合を、図1と2に示しました。ノロウイルスやカンピロバクターによる大規模な食中毒も発生しています。今回は、少量感染による食中毒についてお話します。

 

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1)大規模食中毒事例

 2016年には、500人以上の患者さんを出した大規模食中毒が2例報告されています。1例目は福岡と東京での、いわゆる「肉フェス」イベントで鶏のささみ寿司を原因としたカンピロバクター食中毒です。合計の患者数は、609名でした。2例目は京都の旅館で発生したノロウイルス食中毒で、患者総数は579名でした。いずれも、発症菌量の少ない感染性食中毒微生物によるものでした。

 

2)食中毒死亡事例

 春が来ると、山菜を求めて野山で植物を採取する方が増えます。また、家庭菜園にニラ等を植え、スイセンと間違える方もいます。山菜と毒草の誤認、家庭菜園の管理失敗によるイヌサフラン、トリカブト、スイセンの誤食により4名の方が命を落としています(表1)。

 少量感染菌の代表ともいえるO157(第33話)により、10名の高齢者が死亡しています。千葉県と東京都の老人ホームで、8月下旬に発生しました。同一の企業が提供した給食が原因でした。キューリのゆかり和えがO157による汚染を受けていました。

 

3)少量感染微生物性食中毒

 表2のように、大量に病原体を摂取しなければ発症しない腸炎ビブリのような食中毒もあります。一方、サルモネラ・エンテェリティデス(SE)、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌、ノロウイルスのように100個以下の少量を摂取した場合でも食中毒が起こる場合があります。少量感染が起こり、発症に至る場合があります。2017年2月に発生したキザミノリを原因食品とした学校給食におけるノロウイルス食中毒では、1000人を超す食中毒患者が報告されました(第38話)。ノロウイルスの摂取量は極めて少なかったと推定されています。また、リステリアは、人間の免疫細胞内に寄生することが知られており、少量感染を引き起こす能力があります(第30話)。

 

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4)少量感染微生物食中毒対策

 食中毒の原因物質としての少量感染菌への対策は、図3のように、食品の原材料の一次生産から最終消費まで、全ての段階で必要です。特に、O157やノロウイルス等は、病気にかかっている人、年少者、老人、妊婦、免疫不全の方は、病原体に対する感受性が高くなっているので注意が必要です。これらの方々は、ハイリスクグループと呼ばれることがあります。健康な若い人でも、疲れていたり、体調が良くなかったりする時には、感受性が高くなることがあります。

 

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感染性食中毒を起こす病原体は、食品や水ともに消化器に到達しますが、ノロウイルス等では、空気中に漂うことにより感染することが知られています。飛沫核と呼ばれるノロウイルスが水分を失った状態では、空気の流れに乗って遠くまで飛散することも知られています。

 感染性微生物対策では、病原体を殺すこと、隠れ家をなくすこと、食品や人間への侵入経路を遮断することが必要です。公衆衛生としての環境・空間的対策には、住民全員の協力が必要です。食品工場を出ると病原体だらけでは、食品の安全性を確保することが難しくなります。リスクコミュニケーションにより、国民全員で正しい知識を共有し、協力して対策をとることが必要です。

 食品取扱者は、リスクコミュニケーションにも役割を果たす必要があります。そのためにも、まず、以下の項目を心がけていただきたいと思います。

 

 ①食品安全文化への貢献

 少量感染微生物による食中毒は、意識の低い食品取扱者が一人でもいると、発生する怖れがあります。全ての食品取扱者の衛生意識を向上させる必要があります。その為には、定期的・継続的に教育・訓練を実施することが有効です。

② 食中毒予防の徹底

 少量感染微生物は、少量の微生物が食品に付着しただけで食中毒の原因となる怖れがあります。食中毒予防の3原則の菌をのうち、「つけない」を徹底することが重要となります。手指・器具・食材等を適切に洗浄・消毒する、器具・ダスターは用途別に使用するなどの「つけない」を意識した作業に努めましょう。

 

 少量感染微生物対策では、食品取扱現場に病原体を「持ち込まない」ことも必要です。「持ち込まない」「つけない」「増やさない」「殺す」を忘れないようにしましょう。

 

【参考文献】

1)厚生労働省:平成28年食中毒発生状況 (概要版)

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000155505_1.pdf

2)小久保彌太郎監修:現場で役立つ食品微生物Q&A、第4版、中央法規出版(2016)