第38話 下痢便も色々

2017.05.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

前回は、食品取扱の衛生管理における「色使い」の工夫ついてお話ししました。今回は、食中毒等による下痢便の色についてお話しします。下痢とは、便の水分量が増して柔らかくなり、泥状から水様になった状態をいいます。多くの場合、トイレを使う回数も増えます。食中毒以外の様々な原因からも下痢は起こります。消化不良、ストレスで下痢になることもあれば、ウイルスや細菌、寄生虫、腸内部の腫瘍等が原因である下痢もあります。日本消化器病学会は、次のような場合には、 急いで医師による診察を受けるよう勧告しています。

①海外旅行中あるいは帰国後に下痢が起こったとき。

②下痢とともに発熱がみられるとき。

③下痢に血が混じっているとき。

④長い間下痢が続いているとき。とくに体がやせてきたり、腹痛が加わってきたとき。

 

1、下痢と医師診察の必要性

正常な便はバナナ状で水分量は60~70%です。下痢になると水分量が多くなるだけでなく、主に体内の消化機能に何かしらの異常をきたしています。便はその性状によって軟便や泥状便、水溶便とも呼ばれます。そのうちに下痢は治ると考えるかもしれませんが、発展途上の国々では主なる死亡原因です。便は毎日観察しておくと、体調等の低下に気づくことができます。表1に便の外観を示しました。観察するときの注意点は、下記の3点です。

 

①形:つるんとしている、コロコロしている、泥のようだ、ツブツブが浮いている など

②色:茶色、黄色っぽい、白っぽい、黒っぽい、血が混じっている など

③その他:悪臭がする、油っぽい など

 

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病院では、便の状況をより客観的に表現するために図1に示した便の分類を用いることがあります。ブリストル便形状スケールと呼ばれる7段階の分類です。問診を受ける時などに応用すると情報がより正確に伝わります。下痢は自然に止まり、体調が回復する場合もありますが、「腹痛」などの付随症状にも注意が必要です。「腹痛」がない場合と、ある場合では、ある場合の方が医師の診察を受ける必要性は高くなります。「腹痛」だけではなく「発熱」の症状がある場合は、さらに診察を受ける必要性は高くなります。

 

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何らかの病気の存在が疑われますので、早めに治療を開始することで症状を抑え、より早く回復することができます。その際、可能な限り「どのような便が出たのか」を医師に報告することが重要です。例えば、「便に血が混ざっている」とか「便がいつもよりも黒い」といった様子が見られる場合には、腸で出血が起こっている可能性があります。胃腸系の重大な病気の可能性もあり、最悪の場合はそれで命を落とすことも考えられます。危険な病気であっても病気が進行する前段階でそれを発見し、治療を開始することで、命にかかわる可能性を低くし、治療期間が短く済む事も多くあります。

 

2、下痢便の色

お腹の状況を下痢便の色から推測できる場合があります。

①茶:腸がいつも以上に負担が発生しており、消化不良を起こしている状態。

②白:ウイルス感染を引き起こしている可能性があり、特にロタウイルスに感染している場合には白い下痢便になる。

③黄:栄養を正しく吸収しておらず、栄養もしくは貧血気味の状態。黄色の下痢が数日続いている場合、過敏性腸症候群を発症している。ストレスなどが原因で発生する事も少なくない。

④黒:腸内温度が高くて匂いがかなりきつくなっている。

⑤赤:出血を起こしていて、痔など原因になっている事が多いです。

 

3、下痢と食品取扱い者

  2017年2月、東京都立川市の小学校7校で、約1,100人の児童らが下痢などの症状を訴えました(図2)。この集団食中毒の原因は、「刻みのり」に由来したノロウイルスと判明しました。少量のノロウイルスでも食中毒を起こすことが再認識されました。原因食品としての「のり」は製造過程で加熱されおり、加熱後の作業で混入したました。この作業の担当者は、下痢をしていたことを認めています。

 

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 下痢を起こす原因には多くのものがありますが、下痢をしている食品取扱者は食品を取り扱うべきではありません。食品を媒介として、下痢の原因となるウイルス等を消費者に移行させてしまうからです。食品の取扱いをすべきではない症状例として、厚生労働省は「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針」において、以下の8項目を示しています。

 ① 黄疸、 ② 下痢、 ③ 腹痛、 ④ 発熱、  ⑤ 発熱をともなう喉の痛み、 ⑥ 皮膚の外傷のうち感染が疑われるもの(やけど、切り傷等)、 ⑦ 耳、目又は鼻からの分泌(病的なものに限る) 、⑧ 吐き気、おう吐、

 また、病原体に感染していても症状を示さない健康保菌者も食品を取り扱うべきではありません。厚生労働省は、「食品取扱者は、定期的な健康診断及び月に1回以上の検便を受けること。検便検査には、腸管出血性大腸菌の検査を含めることとし、10月から3月の間には月に1回以上のノロウイルスの検便検査に努めること」を勧告しています。

 

【参考文献】

1)中村孝司:下痢,日本消化器病学会ホームページ,

http://www.jsge.or.jp/citizen/senmon/geri.html    

2)神山剛一ブリストルスケールによる便の性状分類

http://www.carenavi.jp/jissen/ben_care/shouka/shouka_03.html

3)厚生労働省:食品等事業者の衛生管理に関する情報

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/01.html

4)厚生労働省:食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針、平成 26 年 10 月 14 日

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000084849.pdf