第31話 果物の生食

2016.10.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

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 果物は、そのままや皮を剥いて食べる場合が多く、絞ってジュースとしても楽しまれてきました。最近は、固形物や食物繊維特有の食感も楽しむスムージーのような食べ方も流行しています。図1のように事前にカットされ、食べやすくされたものも売られています。果物は、非加熱のまま口に入れることが多い食品です。加熱すると身体に良いと思われる成分が壊れてしまうとの思いも広がっています。今回は、生食された果物が原因になっている食中毒について報告させていただきます。

 

1)果物とは

 果物と野菜は,どこが違うのでしょうか?八百屋で売っている物が野菜,果物屋で売っている物が果物とは限らないようです。古代、木(く)の物と呼んでいた地上から離れた空中の木の枝に実る物を、時代とともに果物(くだもの)と呼ぶようになったと考えられています。

 

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卑弥呼の時代には、野菜は果物とともに生食されていたとの推測もあります。しかし、地上から離れた位置に実る果物と異なり、地上に生える野菜を積極的に生食していたと思えません。火を通していたと思われます。野菜等の栽培に糞尿等を肥料として用いる技術が開発されてからは、薬味としてネギ等を用いる程度の生食であったと思われます。野菜が生のまま積極的に食べられるようになったのは、第二次世界大戦後に化学肥料が普及してからです。その後、1970年代になってコールドチェーンが整備され、海から離れた場所でも生の魚介類や生寿司が食べられるようになりました。果物以外の食品の生食は、40年程度の歴史しか持っていないようです。現在でも、コールドチェーンが普及していない国々では、果物以外の生食はあまり行われていません。長い生食の歴史を持つ果物であっても、フードチェーンの変化等により大型や散発の食中毒の原因食品となることがあり注意が必要です。

 

2)果物による食中毒

昔から米国では、加熱しない果実ジュースが好まれていました。特にリンゴの未加熱ジュースはサイダーとも呼ばれて人気を得ていました。瓶詰として大量生産され、広域に販売されるようになると、未加熱ジュースに腸管出血性大腸菌O157:H7等が混入した場合には、さらに多くの犠牲者を出すようになりました。

果樹園に家畜を入れて除草と肥料の供給に使ったり、落下してしまった果実、あるいは収穫を省力化するために幹を揺すって果実を落下させた果実などに原因があったと考えられています。第23話でもお話しましたが、リステリア・モノサイトゲネス(Lm)が生のリンゴを使ったリンゴ飴を媒介として死者7名を出した大きな食中毒を起こした例もあります。

図2は,1998年に米国東部農業研究センター(フィラデルフィア郊外)で行われていたリンゴのO157汚染実験の様子です。汚染させた赤リンゴとともに、汚染させていない青リンゴを洗浄すると青リンゴも汚染されることなどが明らかになりました。その後,米国は果物のジュースの製造にHACCPによる管理を義務化しました。米国のジュースHACCPは加熱処理と同等以上の殺菌効果があれば良いとされており、紫外線(UV)処理された非加熱ジュースも合法的に製造・販売されています。

 

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今年の夏、オーストラリアでロック・メロンによるサルモネラ食中毒が発生しました。Salmonella Hvittingfossという珍しい血清型のサルモネラが原因菌でした。118名の食中毒患者が報告されましたが、幸い死者は出ませんでした。我が国では高級メロンを温室で棚を作って空中で栽培していますが,地上で栽培されるメロンもあります。土地の広い諸外国では,地上で大規模に栽培されています。2011年には米国で33名もの死者を出したカンタロープ・メロンによる食中毒が起きています。原因菌は(Lm)でした。米国政府の調査では、メロン農場で収穫後の洗浄に使った機械によりLmが拡散した可能性があるとされていますが、地面を使って栽培される作物は食品衛生的な管理を徹底すべきだったとも考えられます。空中であれ地上であれ、果物も一次生産から消費まで病原体に汚染される可能性があることを知った上で生食すべきですね。

 

3)果物を生で食べる時には

・入手経路を確認しましょう

 動物が近くにいたり、農業用水等が不潔な農場の果物は食べないようにしましょう。身元が良く分からないような信頼できない販売者からは購入しないようにしましょう。

・良く洗いましょう。

メロンやスイカのように硬い表皮を持つ果物を食べる場合も、そのまま切り始めるのではなく、必ず洗剤と流水を使って,しっかりと洗いましょう。図3は,米国東部農業研究センターで行われたメロンの実験結果です。汚染を受けたメロンは,水洗いだけでは除去が難しいことを顕微鏡写真が示しています。

 

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果物の洗浄には,野菜果物用の洗剤を使うようにしましょう。貝殻等を高温で処理した焼成カルシウムは,食品の殺菌にも利用できます。カイワレ大根の消毒などに利用されていますが,取扱いに注意が必要です。水に溶かすと強いアルカリ性を示し,目に入れば失明する可能性もあります。取り扱いの教育・訓練を受けた従業員が,管理された区域内で使用すべきです。

火傷に気を付けながら、表面にお湯をかけるのも良い方法です。水分をペーパータオルでしっかりと拭ってから、清潔な包丁で切ってください。

・包丁や切り口からの病原体の移行に注意しましょう。

果物の表面は汚れていると考えましょう。良く洗わずに切ると包丁等を媒介にして,表面にいた病原体が可食部に移行します。農場や流通・小売過程で清潔な取り扱いがなされたとしても、自宅の冷蔵庫等に保管しているときに、汚染を受けることもあります。

・早く食べてしまいましょう

Lmは、ゆっくりですが低温でも増殖できる食中毒菌です。室温では、低温よりも早い速度で増殖します。果物は、栄養豊富で水分もたっぷりありますので、食中毒菌の増殖に適しています。切ったり、ジュースにした場合は、なるべく早く食べてしまいましょう。どうしても食べきれないときは、覆いをして冷蔵庫に保管しましょう。

 

A型肝炎ウイルスやクリプトスポリジウム原虫に汚染された果物の生食によって,食中毒が起こった例もあります。冷凍果物も病原体の媒介をすることがあります。清潔な農場で清潔に育てられた果物を清潔に生食するようにしましょう。農場から食卓までの衛生管理を大切にしましょう。

 

参考文献:

1)奥村彪生:日本人の生食文化の歴史と安全性,公衆衛生、76, 6-10(2012).

2)一色賢司ら:カルシウム製剤による微生物制御の可能性について、日本食品工業学会誌、41, 135-140 (1994)

3)DIKE O. UKUKU, et al: Effect of Hydrogen Peroxide in Combination with Minimal Thermal Treatment for Reducing Bacterial Populations on Cantaloupe Rind Surfaces and Transfer to Fresh-Cut Pieces, : J. Food Protection, 79, 1316–1324 (2016)