home食品衛生コラム食品と微生物とビタミン愛第15話 レトルトモドキ食品とボツリヌス菌

第15話 レトルトモドキ食品とボツリヌス菌

2015.06.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 4月の下旬、米国オハイオ州の教会で集団ボツリヌス中毒が発生しました。昼食会に参加した50数名のうち、1名の女性が亡くなりました。21人がボツリヌス症と診断され、10名が疑似患者と診断されています。原因食品は、自家製のポテトサラダ缶詰でした。我が国では自宅で缶詰や瓶詰を作る習慣はありませんが、欧米には食文化として根付いている地域もあります。

我が国で心配されるのは、セミレトルトやソフトレトルトと呼ばれる真空包装されたレトルトモドキの包装食品群です。ホームセンターに行けば一般家庭でも簡単に真空包装できる道具やフィルム袋(パウチ)が売られています。

 

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食品加工業者の中にも、ボツリヌス菌(図1)対策としての十分な加熱殺菌や保存料等の添加を行わずに、低温で流通させることにより、ボツリヌス食中毒等を防止する食品を大量に出荷している業者もいます。流通小売業者の中には、レトルト食品とレトルトモドキ食品の違いを理解していない業者もいます。

レトルト(パウチ)食品は、食品衛生法では「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」と呼ばれる食品であり、常温でも取り扱えるようボツリヌス菌対策が必要とされています。特に、pH が4.6 を超え、かつ、水分活性が0.94 を超える食品はで強い殺菌が必要とされています。

1984年には、熊本県で製造された真空パック「からしれんこん」が原因食品となったボツリヌス中毒が発生しています。熊本空港の開港もあって、お土産として全国に「からしれんこん」が持ち帰られ、食中毒は13都県市にまたがり、患者31名、死者9名に達する大事件となりました。

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2012年には、鳥取県で「あずきばっとう」のレトルトモドキ食品で悲劇が起こっています(図2)。ぜんざいの餅や団子の代わりにうどんを使った食品です。低温流通を前提として青森県で製造され、真空パック包装されたものです。レトルトとしての強い加熱はされていません。レトルト食品に見える、レトルトモドキ食品でした。「あずきばっとう」を食べたご夫婦ともに重体となり、現在でも病院に入院されているようです。

 厚生労働省はボツリヌス食中毒への注意喚起を行い、消費者庁はレトルトモドキ食品には低温流通、冷蔵が必要であることを目立つ位置に明示することを通知しています。国民の全ての人々がレトルトとレトルトモドキの違いを認識することが必要です。要冷蔵食品についてのリスクコミュニケーションにより、悲劇を繰り返さないようにしましょう。

レトルトモドキ食品は、コールドチェーン(低温流通)が途切れていないことが安全性確保の前提条件です。スーパーマーケット等のバックヤードでも低温保管が行われている事を開示して、透明性を示す必要があります。製造物責任(PL)法のみならず、流通・販売者の責任を追及する法整備も必要になっているのかも分かりませんね。

 

参考文献

1) 小久保彌太郎編:現場で役立つ食品微生物Q&A、第3版、p.65、中央法規出版(2011)

2) 厚生労働省:真空パック詰食品(容器包装詰低酸性食品)のボツリヌス食中毒対策(2012)

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/03-4.html

3)(一財)日本食品分析センター、忘れてはいけない、ボツリヌス毒素の脅威を、JFRLニュース、4 (11),1-8(2012)

http://www.jfrl.or.jp/jfrlnews/files/news_vol4_no11.pdf