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第143話 気になる加熱後の食品の取り扱い

2026.02.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 図1のように米国で、乳児ボツリヌス症を発生した赤ちゃんが51人も確認されています。原因は、育児用粉ミルクでした。幸いにも死亡した赤ちゃんは、いないようです。粉ミルクのような加熱食品でも、食中毒や品質不良が発生することがあります。

 黄色ブドウ球菌の耐熱性毒素やウェルシュ菌の耐熱性胞子などによる食中毒事例は、良く知られています。最近、加熱食品による珍しい食中毒やリコール製品回収例が発生しています。

 食品の加熱処理や関係する食品衛生管理について考察してみましょう。

1)最近の加熱食品の問題発生事例

1-1)育児用粉ミルクのボツリヌス菌

 これまでの米国での調査では、2023年12月から乳児ボツリヌス症は発生していたと推測されています。2025年12月までに、51名の赤ちゃんが発症しているそうです。当該製品は、リコールされています(図1)。

1-2)育児用粉ミルクのセレウス菌嘔吐毒セレウリド

 EUでは、図2のよう、セレウス菌の嘔吐毒セレウリドが検出され、育児用粉ミルクがリコールされています。健康被害については、調査が行われています。

 セレウリドは耐熱性が高く、保存していた炊飯米を加熱するためチャーハン(焼飯)にして食べて、食中毒を起こすことがあります。焼飯食中毒とも呼ばれることもあります。セレウス菌は環境に広く分布し、耐熱芽胞や耐熱性の毒素を産生するため、警戒を怠ることがないようにしたいものです。

 2023年9月に、わが国で広域に554人もの患者を出した駅弁食中毒事件が発生しました(表1)。病因物質は、黄色ブドウ球菌(エンテロトキシンA型)とセレウス菌(下痢毒産生)とされています。粉ミルクから検出されたセレウリドとは、異なる毒素です。

1-3) 即席パスタキットによるリステリア食中毒

米国では、購入後に加熱して食べるパスタキットによるリステリア食中毒が発生しています。表2のように、6名の死者と流産死1名が確認されています。

 図3はリコールされたパスタキットの例です。パスタと具がカップに入っており、電子レンジで加熱して食べる製品です。

 表5のように、2025年3月19日にリステリアが検出され、その後の調査により、2024年8月から発生していたリステリア食中毒とも関係していることが明らかになりました。

 調査開始当初には、使用された野菜類がリステリアに汚染されていたと考えられていました。調査が進むと、食中毒の原因食品を製造していた異なる工場の製品から同一遺伝子型のリステリアが検出されました。ことなる工場の製品の共通原材料は、パスタの麺であることが判明しました。このパスタ工場が、遅くとも2024年8月1日には、リステリアに汚染されていたと推測されています。

 この食中毒事例にも、疑問点があります。

①ゆでた(加熱した)パスタが使われたのに?

 リステリアは、麺がゆでられた後、品温が下がってからパスタを汚染したと考えられます。工場内にリステリアが住み着いていたことも推測されます。

②加熱して食べたのに?

 消費者が、電子レンジによる加熱を十分に行わなかったとも考えられます。食品会社がパッケージに表示した電子レンジによる加熱条件が適合していなかったかも分かりません。加熱条件が適合していても、それを消費者が守っていなかったとも考えられます。

2)耐熱性芽胞を作る食中毒菌

 耐熱性菌(熱に強い芽胞を形成する細菌)による食中毒や食品安全上の事故は、一般的な加熱処理(100℃程度)を生き残り、その後の調理・保存過程で増殖することによって発生します。特に、大量調理施設や、加熱後に常温で放置されやすい食品で事故リスクが高くなります。

表3に芽胞形成菌の特徴を示し、図4にボツリヌス菌の芽胞の模式図を示しました。

 図5のように、世界保健機関WHOは、5~60℃の温度域を危険ゾーンとして、食品を放置しないように勧告しています。

 60℃以上にするのは、ウェルシュ菌やセレウス菌の耐熱胞子が、60℃以下の温度帯で出芽・増殖し、食中毒が起こるからです。

 5℃以下にするのは、リステリアのように5~10℃の低温で増殖する食中毒菌もいるからです。わが国では、10℃以上を危険ゾーンと見なしていますが、5℃以上に変更すべきだと考えます。特に加熱後の食品は、中心部温度の急速な低下が必要です。急いで危険温度ゾーン60~5℃を脱出させるべきです。

「食品を加熱しても、リスクはゼロにはならない」ことや、「温度が下がると芽胞が増殖を始めたり、危害要因ハザードが再汚染したりする」ことを、忘れないようにしましょう。

参考文献:

1) FDA: Outbreak Investigation of Infant Botulism: Infant Formula (November 2025)

https://www.fda.gov/food/outbreaks-foodborne-illness/outbreak-investigation-infant-botulism-infant-formula-november-2025

2) Singapore Communicable Diseases Agency: Frequently asked questions (FAQs) on cereulide poisoning for parents and caregivers

17 January 2026

https://www.cda.gov.sg/resources/faqs–on-cereulide-poisoning-for-parents-and-caregivers-/

3) J. Whitworth: Lactalis and Danone affected by infant formula toxin issue, Food Safety News, January 22, 2026,

https://www.foodsafetynews.com/2026/01/lactalis-and-danone-affected-by-infant-formula-toxin-issue/