第142話 これから、何を食べるのでしょうか
2026.01.01

新年、明けまして、おめでとうございます。
今年は、馬年です。第141話に書きました熊や人は、何でも食べる雑食性です。馬は、植物を食べる草食動物です。図1は、北海道・浦河の牧場の馬です。競争馬として育てられる場合には、牧草に加えて、ニンジン、リンゴ、穀物(エン麦)、大豆、角砂糖、はちみつなども与えられます。
牛は植物を消化するため4つの反芻胃を持っていますが、馬の胃は1つです。人間も1つです。馬の胃は飼料と胃液を混ぜ合わせる部位です。馬の胃は体格の割には小さいので、一度に大量の飼料飲み込むと胃破裂を起こすこともあるそうです。馬には大きな盲腸などがあり、植物を消化し、栄養素を吸収しています。
年の初めのお正月です。これまでと、これからの日本での食べ物について考えてみましょう。
1)食べないようにしてきた物
人類は、約700万年前にチンパンジーと共通の祖先から分かれたと考えられています。木の上で暮らしていましたが、食料不足などの事情で、地上に降りて二足歩行の生活を始めたと推定されています。食料不足、飢餓を経験し、食生活を工夫し、知恵のあるヒト(ホモ・サピエンス)として今日まで、食べ続けてきました。

世界保健機関WHOは、表1のカラムAに示した「食品をより安全にするための5つの鍵」を2001年に発表しています。表1のカラムBには、過去から受け継いでいる、いくつかの教訓を示しました(第123話)。
人類は、どのようなものを食べないようにしてきたのでしょうか。表1のカラムAやBなどを合せて考えると、カラムCに示したチェックポイントが考えられました。
①毒性学的妥当性~⑤経済性は許容できても、口にしない場合もあります。
⑥食文化には、各地方の慣習や考え方、あるいは宗教的な影響も含まれます。季節や行事(冠婚葬祭)などによって選択が異なる場合もあります。今年の干支である馬は、英国や北米では食べませんが、フランスなどのEUでは食べています。わが国の熊本では、好んで生の馬肉を食べています。
⑦の信頼性が低いと、口にしない場合も増えてきました。⑧のように生物を食料資源として保護するために、食べない場合もあります。ニシンやハタハタは漁獲量が減り、休漁し、資源として回復させました。昨年は、不漁だったイカが急に豊漁になりましたが、計画に従った漁獲量で休漁にしています。
2)食品と医薬品
わが国では、「食品は、すべての飲食物、そのうち医薬品、医薬部外品および再生医療等製品は含まない」と定められています(食品安全基本法と食品衛生法)。
医薬品は「①日本薬局方に収められている物、②人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等でないもの、③人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの」と定められています。「薬機法」と略される、「医薬品,医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」で定義されています。

表2は、食品と医薬品の関係を図解したものです。「健康食品」は法的な定義はありません。保健機能食品や特別用途食品でもない一般食品に含まれると、されていますが、健康食品は誤解を招き易い、あいまいな言葉です。
一般食品は、表2では食品の枠の中の白地の部分です。この部分の食品は、生理機能性を表示したり、宣伝したりすることは許されていません。
3)特別用途食品と保健機能食品
上記のように薬機法により、人の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物は、食品ではなく、医薬品とされています。食品では、人の身体の構造又は機能に影響を与えることを目的とすることはできません。例外として、表2の2つの丸い領域に該当する保健機能食品と特別用途食品は、人の身体の構造又は機能に影響を与えることを目的とすることが許されています。
特定保健用食品(トクホ)の表示は,消費者庁の審査を受け,消費者庁長官の許可を受ける必要があります。特定保健用食品は、保健機能食品でもあり特別用途食品でもあるので、表2の下段の丸い領域が重なった部分に位置しています。特別用途食品を狭義に捉える議論では、特定保健用食品を除く場合もあります。
それぞれの食品は,食品表示法や食品表示基準によって適切な表示をすることが求められています。成分の機能や特別の用途を表示する場合は,保健機能食品と特別用途食品という制度に従う必要があります。
保健機能食品は成分機能を表示できる食品として,特定の栄養成分の機能が表示できる栄養機能食品、企業などの責任において保健の機能が表示できる機能性表示食品、消費者庁長官が許可した食品であって保健の機能が表示できる特定保健用食品(トクホ)の3つに分類されています。これら3つの食品はいずれも一般食品と同様に健常者(疾病に罹患していない方)を対象にした食品です。
特別用途食品は病者,えん下困難者などの健康の保持・回復や乳児の発育などに適するという特別の用途について表示できる食品です。これらは、健常者が対象ではなくいわゆる病者が対象です。保健機能食品はセルフメディケーションの観点から,健康の維持増進および疾病の予防を期待して,利用者自身が判断して利用するものです。一方、特別用途食品は病者などの対象者にとって、生きて行くために必要な食品です。
特別用途食品の表示については,消費者庁の審査を受け,消費者庁長官の許可を受ける必要があります。
4)これからの食料需要と調達
わが国を含む先進国の人口は減少していますが、地球全体では人口の増加傾向は続くと推測されています。人口増加や紛争、さらには気候変動により食料の需給は、不安定化すると考えられます。わが国の食料自給率は低水準で推移し、食料の輸入依存度が高いため、国際情勢や円安の影響を受けやすく、不安がつのります。
十分な量の安全な食品を消費し続けるためには、フードチェーンを大切にする国民を増やす努力が必要になります。食料輸出国にも信頼される国民が増えて欲しいものです。国内生産の強化による食料自給率の増加と食料輸出国との信頼関係の維持に努めたいものです。
国連食糧農業機関FAOは、今後の食料調達と食品の安全性確保について、2025年4月に専門家による検討会を開いています。これからの食品の安全性についても意見交換を行い、国際的な協力が必要であると報告しています。
わが国の法的な食品と医薬品の取り扱いは、医薬品上位とされています。人の身体の構造または機能に影響を及ぼすものは医薬品と規定されています。食品の中で、この影響を与えることを表示しても良い食品群が例外として表2のように認められています。
EUは、①食品と②医薬品の間に③Food Supplementという物質群を設けて管理しています。米国は、①食品と②医薬品の間に③Dietary Supplementという物質群を設けて管理しています。中国は、①食品と②医薬品の間に③保健食品という物質群を設けて管理しています。カナダやオーストラリアは、サプリメントを医薬品として①食品と②医薬品の2群で管理しています。
わが国は、①食品と②医薬品の間に③特別用途食品、④保健機能食品という物質群を設けて管理しています。
食品の定義は、独立国や地域で異なるのは、当然です。食料自給率が低いわが国は柔軟な食品需給の運用で、国民を飢えさせることがないようにしていただきたいと願っています。
2024年3月に紅麹サプリメントによって健康被害が、発生していることが公表されました。製造に失敗した製品を出荷したことが原因と推定されています。腎疾患などの健康被害が多数発生しました。製造会社は、紅麹事業から撤退し、関連工場の閉鎖や製品の自主回収・販売停止、被害者への補償対応を進めています。国は機能性表示食品制度の見直しなど、再発防止のための対応を行っています。機能性表示食品制度について、健康被害情報の届け出義務化やサプリメントのGMP(適正製造規範)の要件化などが導入されています。
「食品は原則自由」、一方「医薬品は原則規制」で専門家あるいは資格を有する者が管理する必要があると考えられます。食品と医薬品の中間に位置する物質群についての取り扱いは、国や地域ごとに異なっています。地理的な気候風土の違い、食文化の違いが反映されています。わが国では、表2の食品欄の2つの円の内部に相当する物質群です。わが国では、医薬品的食品として規制されています。どのような規制を導入しても、国民の理解力の向上と事業者の商道徳の遵守がなければ、悲劇は繰り返されます。
5)「いただきます」を忘れずに
食品に起因する、あるいは食品が媒介する健康への悪影響は食中毒だけではありません。暴飲暴食や栄養失調は含みませんが、これらは食性病害と呼ばれています(図2)。食中毒統計に乗らない食性病害は、たくさんあります。

暑かった夏が終わり、短い秋も去り、冬が来ました。例年、冬が来るとノロウイルス食中毒などが増加します。吐き気や下痢の症状があっても、病院に行かない方もいます。病院で診察を受けても、検査もされずに整腸剤を処方される方もいます。保健所には連絡されない例数は、多いと思われます。

食品は衛生的であり、なおかつ品質が保証されなければなりません。消費者にも食品の原材料は生物であることや、食生活にもゼロリスクはないことなどを理解していただく努力も必要です。中身ではなく、外観を重視し、マーケッティングの誘導に惑わされないように、心がけることも必要になっています。
安全な食品の安定調達のために、フードチェーンを大切にし、貢献することが求められています(図3)。フードチェーンを正確に理解している消費者は、減少しているのではと心配されます。フードチェーンを大切にする消費者、すなわち国民が増えれば、各分業の担当者のお仕事も楽になると思われます。
食性病害を減らすには、消費者、すなわち国民全員のフードチェーンへの理解を向上させることが必要です。言い換えれば、自身がフードチェーンの担当者という自分事に気付いていただく努力も求められていると思われます。「いただきます」を忘れずに、フードチェーンへの感謝を次世代に伝えて欲しいと願っています。
参考文献:
1)WHO:「食品をより安全にするための5つの鍵」、2025年12月22日閲覧
2) R. Siligato, et al.: Food safety foresight: approaches to identify future food safety issues, FAO, Rome, 2025年12月22日閲覧
https://openknowledge.fao.org/handle/20.500.14283/cd6798en
3)厚生労働省:紅麹を含む健康食品関係、2025年12月22日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/daietto/index_00013.html
4)一色賢司:「食中毒」の原因と「食中毒」を防ぐさまざまな方法、味の素株式会社、2025年12月1日更新
https://www.ajinomoto.co.jp/products/anzen/know/f_poisoning_01.html