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第123話 「食べないようにしてきた物」

2024.06.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

図1の報道は、有毒なイヌサフランを誤食して、2名死亡したことを示しています。ギョウジャニンニクと間違えたようです。春が来ると山菜を探しに、出かける人が多くなりますが、本件は自宅の庭に観賞用に植えていたイヌサフランをギョウジャニンニクと誤認してしまったようです。

食べないと死んでしまう人類は、食べ物で多くの失敗を経験しながら、より安全で、より安定した食生活を築いてきました。過去の経験を活かして、現在と将来の食生活をより豊かなものにしたいものです。

1)食べないようにしてきた物

図2は、2012年4月に函館で発生したトリカブトの誤食事件の報道記事です。

若いニリンソウと若いトリカブトの見分けができなかったようです。

図3は、厚生労働省が注意喚起のために作成した「自然毒のリスクプロファイル」の様子です。山菜や自然毒の専門家でも、若いトリカブトとニリンソウの判別は慎重を要します。花が咲くと違いが分かり易いのですが、春先の若い植物体の判別は困難を伴います。暗い山中や足場の悪い場所での判別は、さらに困難を伴います。

 キノコの採取や入手でも、毒キノコとの誤認を起こさないように注意が必要です。2023年10月には、家庭でキノコ中毒が起こり70歳の女性が亡くなっています。ドクツルタケを食べてしまったと推定されています。

 世界保健機関WHOは、「食品をより安全にするための5つの鍵」として表1のカラムAに示した5項目の実践を勧告しています。表1のカラムBには、過去から受け継いでいるいくつかの教訓を示しています。

 人類は、何を食べないようにしてきたのでしょうか。表1のカラムA、Bなどを合せて考えると、カラムCに示す7つのチェックポイントに疑念があれば食べないようにしてきたと考えられます。①毒性学的妥当性~⑤経済性が許容できても、口にしない場合もあります。

 カラムCの⑥食文化には、各地方の慣習や考え方、あるいは宗教的な影響も含まれ、季節や行事などによって選択が異なる場合もあります。⑦信頼性が乏しければ、拒否し、口にしない場合も増えてきました。

 図4にはフランスの肉類に関する政令の報告です。施行日は、2024年5月1日です。フランスは、従来からの肉類の範疇を守り、植物由来の代替肉や動物細胞を培養した代替品は肉類としての表示を認めないことが示めされています。代替肉は食べても良いけど、肉類を食べたことにはならないようです。

2)新規食品の分類や名称について

 シンガポールのように、これまで食べられていなかった動物細胞の培養物を食べ始めている国もあります(第114話)。一方で、イタリアのように動物細胞の培養物を食べるのは、時期尚早として反対を表明している国もあります。

 エンドウ豆などで食肉の代替品が作られ、世間の関心を集め、わが国でも植物ベースの代替肉の生産・販売が増えてきました。従来の畜産では牛の生育に伴い、ゲップに伴うメタンガスが地球温暖化を促進しているとの指摘もあり、植物性代替肉を選択する消費者も増えていました。健康に良さそうとして、植物性の食肉代替品を選ぶ消費者も増えていました。

 従来の肉製品に比べて価格が高いこともあり、国際的にも消費が滞っているようです。色・味・香りなどが従来品には勝てないと感じている消費者もいるようです。植物性代替肉の中には、豆に含まれるヘム鉄化合物を遺伝子組換え技術を利用して、色見を良くするために使用している場合もあります。このような技術に疑問を感じている消費者もいます。

 シンガポールで鶏肉細胞の培養物を混合した食品が認可され、販売されています。米国、オーストラリアやイスラエルでも、動物細胞の培養物の販売に当局と事前相談が行われ、販売の準備が進められています。

 いわゆる培養肉についても、疑念を持つ消費者や政治家も増えているようです。米国のフロリダ州では培養肉の生産・販売禁止法案に州知事が署名し、州法として効力を持ったそうです。同様な法案が、アラバマ州でも成立したそうです。

 他の州の中には、植物由来の原材料や細胞培養由来の代替品を「肉」と表示することを禁止している州もあるようです。いわゆる培養肉に、従来からの肉ではないことを表示することを義務付けた州もあるそうです。

 わが国での細胞培養物などの取扱いは、未定です。表2は、細胞培養物などの食品化への課題を示しています。Codexでの議論も、これからです。これらの食品も、安全第一、品質第二、利益第三で対応しないと、食品の分類や表示を含む適切な規制や、消費者の理解は得られないのではないのでしょうか。

食べないようにしてきた物と、食べて行く物について、考えてみてはいかがでしょうか。口から入る災いは、上手に避けたいものですが、食べられる物を食べられない物にすると、子孫を困らせることになりそうです。ゼロリスクは、ありえないことも忘れないようにしたいものです。

参考文献:

1) WHO、国立保健医療科学院:「食品をより安全にするための5つの鍵」日本語版、平成19年3月20日

https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/microbial/5keys/5KeysManual_jp.pdf

2) 農林水産省:フードテックをめぐる状況、令和6年1月. https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sosyutu/attach/pdf/meguji.pdf

3) FAO: Food safety aspects of cell-based food. Background document three, 2022.

https://www.fao.org/ documents/ card/en/c/cc2353en

4) 一色:フードチェーンとフードテック、食衛誌、65,j5-8(2024).

5) 五十嵐ら:細胞培養食品に係る開発や諸外国の衛生規制に関する最近の動向、食品衛生研究、73(12),17-32(2023).