第3話 食中毒を防ぐには

2008.03.01

食中毒を起こすO157や黄色ブドウ球菌は、肉眼では見えません。直線に1,000個並べて、やっと約1mmになります。食物の生産から消費まで、見えない食中毒菌に対し、皆で気を付けなければ食中毒は防げません。

食中毒予防のため、皆さんが食中毒菌に生まれ変わったと仮定して、自分自身が生き残り作戦を展開を考えてみるなど、 食中毒菌のことを良く知り、対策を考えてみることが大切です。

我々は微生物と共存しています。微生物のいない世界では、人間は暮らしていけません。味方の微生物もいれば、食中毒を起こす微生物もいます。そんな過去の経験や知識と科学技術を頼りに、微生物を殺したり、増殖させないようにしたりして食中毒から逃れています。 1996年のO157による大型食中毒事件から得られた教訓は、食中毒対策だけではなく、感染症対策も必要であるということです。

食中毒対策の3原則は、「清潔」「迅速」「温度管理」で、食中毒菌を近づけない、早く食べてしまう、熱で殺す、あるいは冷して増殖させないことです。感染症対策の3原則は、「原因対策」「感染経路対策」「宿主対策」で、病原体を殺す、近づけない、隠れ家を与えないことです。

生食の食文化を持つ我が国では、食中毒対策のみに固執せず、皆で積極的に食水系感染症対策に取り組むことが必要です。農家や漁師も食品加工業者も流通業者も皆、食品の消費者です。言い換えれば、全ての人間は食生活者です。楽しい食生活を送るには、食生活者全員が食中毒の勉強をし、皆で対策に取り組むことが必要です。年少者、老人、免疫の低下している方は、食中毒は特に注意が必要です。

食中毒を防ぐため、食中毒菌の特徴を知りましょう。写真はいずれも食品安全委員会の資料です。

 

ノロウィルスノロウィルス

塩素系殺菌剤の方が、アルコールよりも有効。
牡蠣等貝類の生食により発症することがあるが、他の食材も油断できない。
人から人への二次感染もある。

症状

潜伏時間24~48時間。下痢、吐き気、腹痛、38度以下の発熱。

対策

二枚貝は中心部まで充分に加熱する。野菜などの生鮮食品は充分に洗浄する。感染者の便、嘔吐物は要注意。

 

サルモネラ属菌サルモネラ属菌

動物の腸管、自然界(川、下水、湖など)に広く分布。
生肉、特に鶏肉と卵を汚染することが多い。
加熱で死滅する。

症状

潜伏時間6~72時間。激しい腹痛、下痢、発熱、嘔吐。長期に渡り保菌者となることもある。

対策

肉・卵は十分に加熱(75℃以上、1分以上)する。卵の生食は新鮮なものに限る。低温保存は有効、しかし過信は禁物。

 

腸管出血性大腸菌腸管出血性大腸菌(O157含む)

動物の腸管内に生息し、屠殺後生肉への汚染を起こし、糞尿を介して飲料水、井戸水を汚染する。加熱や消毒処理に弱い。
わずかの菌量でも発病することがある。

症状

感染後1~10日間の潜伏期間。 感冒様症状のあと、激しい腹痛と大量の新鮮血を伴う血性下痢。発熱は少ない。 重症では溶血性尿毒性症候群を併発することもある。

対策

加熱に弱いことから、食肉は中心部までよく加熱する(75℃、1分以上)。 野菜類はよく洗浄。と畜場の衛生管理、食肉店での二次汚染対策を十分に行う。低温保存の徹底。

 

腸炎ビブリオ腸炎ビブリオ

海に生息。魚介類を汚染する。真水や酸に弱い。
室温でも速やかに増殖する。
通常の加熱で死滅する。

症状

潜伏時間8~24時間。腹痛、下痢、発熱、嘔吐。

対策

魚介類は新鮮なものでも真水でよく洗う。短時間でも冷蔵 庫に保存し、増殖を抑える。60℃、10分間の加熱で死滅する。二次汚染にも注意。

 

黄色ブドウ球菌黄色ブドウ球菌

人や動物の皮膚等に常在する。
増殖に伴ってエンテロトキシンという毒素を生成し、これによって発症する。
毒素は100℃、30分の加熱でも無毒化されない。

症状

潜伏時間1~6時間。吐き気、嘔吐、腹痛、下痢。

対策

指の洗浄、調理器具の洗浄殺菌。 手荒れや化膿した傷のある人は調理用手袋などをし、食品に直接触れない。防虫、防鼠対策をする。低温保存は有効。

 

カンピロバクターカンピロバクター

家畜、家禽類の腸管内に生息し、食肉(特に鶏肉)、臓器や飲料水を汚染する。
乾燥にきわめて弱く、また、通常の加熱で死滅する。
少ない含量(500個前後)でも発症する。

症状

潜伏期間が2~7日と長いことから、原因食を特定できないことが多い。

発熱、倦怠感、頭痛、吐き気、腹痛、下痢等。

対策

調理器具を熱湯消毒し、よく乾燥させる。肉と他の食品との接触を防ぐ。

食肉処理場での衛生管理、二次汚染防止を徹底する。

 

ボツリヌス菌ボツリヌス菌

動物の腸管や自然界に広く生息する。空気のないところで増殖し、熱にきわめて強い芽胞を作る。 毒性のきわめて強い神経毒を作る。
80℃で20分以上の加熱で毒素は分解される。

症状

潜伏時間12~36時間。吐き気、嘔吐、全身倦怠、神経症状。下痢は少ない。

致命率は25%と高い。

対策

いったん発生すると重篤になる。いずしによる発生が多い。いずしを作る際は新鮮な生魚をよく洗う。 容器が膨張している缶詰や真空パック食品、異臭のあるいずしは食べない。

 

ウエルシュ菌ウエルシュ菌

人や動物の腸管や土壌、下水に広く生息する。
空気のないところで増殖し、耐熱性の芽胞を作り、増殖に伴い毒素を作る。
毒素は100℃、1~4時間の加熱に耐える。

症状

潜伏時間は平均12時間。腹痛、水様性下痢、嘔吐。 発熱はない。

対策

調理後は早く食べる。前日調理したものや再加熱したものは避ける。室内放置をしない。

 

セレウス菌セレウス菌

土壌などの自然界に熱に強い芽胞として広く生息する。
毒素を生成する。
芽胞は100℃、30分の加熱でも死滅しない。

症状

下痢型は潜伏時間8~16時間。下痢、腹痛が主症状。嘔吐型は潜伏時間平均3時間。吐き気、嘔吐が主症状。 発熱はない。

対策

米飯やめん類を作り置きしない。穀類の食品は室内に放置せずに調理後は10℃以下で保存する。

 

リステリア モノサイトゲネスリステリア モノサイトゲネス

家畜、野生動物、魚類、河川、下水、飼料など自然界に広く分布する。
4℃以下の低温でも増殖可能。65℃、数分の加熱で死滅する。
未殺菌チーズ、食肉、野菜サラダ、刺身などを汚染する。

症状

潜伏期間は24時間から数週間と幅が広い。倦怠感、弱い発熱を伴うインフルエンザ様症状。 妊婦、乳幼児、高齢者では重症になることがある。

対策

肉、未殺 菌チーズなどをできるだけ避ける。冷蔵庫を過信しない。

【つづく】

写真:食品安全委員会資料より