第39話「致死的ボツリヌス食中毒について」

 

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司

一色先生の略歴

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米国カリフォルニア州のガソリンスタンドで、4月21日にチーズソースがかかった軽食を買って食べた女性がボツリヌス症を発症しています。彼女以外にも9人がボツリヌス症で治療を受けているそうですが、治療の甲斐なく男性患者1名が亡くなったそうです。上記の女性は重篤な症状を示し、集中治療室で治療を受けています。

 

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わが国では、4月7日に生後6ケ月の赤ちゃんが乳児ボツリヌス症で死亡したと発表されました。乳児ボツリヌス症の死亡例は、わが国では初めてです。蜂蜜はボツリヌス菌が含まれている怖れがあり、1歳未満の赤ちゃんには、与えないように指導されていたはずでした。離乳食に蜂蜜を混ぜて与えていたそうです。赤ちゃんの便と自宅にあった蜂蜜からボツリヌス菌が検出されています。図2は2012年に、わが国で発生した真空包装食品によるボツリヌス食中毒事例の概要です。レトルト殺菌されていない真空包装食品は、要注意です。わが国でもボツリヌスにも十分に気を付ける必要があります。

 

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1) ボツリヌス食中毒(乳児ボツリヌス症を含む)について

 食品に混入したボツリヌス菌が,増殖して神経毒素を産生し,食品とともに摂取することで発症します。毒素型の細菌性食中毒です。特徴を図2に示しました。ドイツ等の欧州では、昔から腸詰めソーセージ等による食中毒が知られていました。この食中毒はラテン語の腸詰め(botulus)からbotulism(ボツリヌス食中毒)と命名されていました。1895年に,塩漬けハムによる食中毒(死者3人,患者39人)の患者と原因食品から芽胞をもつ嫌気性の梓菌が分離され,さらに毒素が産生されていることが発見されました。

ボツリヌス毒素は,地上最強といわれるほど毒性が高く,高い致死率を示します。医学の進歩により、呼吸管理と抗血清の投与により,致死率が低下しています。この他、乳児ボツリヌス症,創傷性ボツリヌス症などが知られている。ボツリヌス菌の毒素は、テロリストに悪用される可能性があるため、厳重に管理されています。

 

2) ボツリヌス菌(Clostridium botulinum

ボツリヌス菌は、グラム陽性,芽胞形成性の桿菌で、数本の鞭毛による運動性を持ちます。大きさは0.8~1.2μmX4~6μmです。酸素のない条件で増殖する嫌気性菌です。生育最適温度は37℃であり、低温では増殖しにくいのですが、E型菌は4℃付近の低温でも増殖します。以前、わが国で自家製のいずしでボツリヌス食中毒が起こっていました。いずしは、北海道や東北の郷土食で,魚,野菜,こうじなどを漬け合わせたものです。いずし食中毒の原因菌は低温に強い、E型菌でした。E型というのは毒素の血清型による分類の一つです。A~G型があり,ヒトに食中毒を起こすのは,A,B,E,Fの4つと考えられています。

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3)症状等

毒素を含んだ食物を食べて,6時間から2週間の間(大部分は12~36時間)に症状が出ます。頭部の神経に麻痺が起こり,続いて運動神経が麻痺するため,ものが二重に見える,まぶたが下がる,うまく発音できなくなる,ものが飲込みにくい,力が入らないなどの症状がでます。これらの神経症状の前に,嘔吐・吐き気・腹痛・下痢などの胃腸症状が良く見られます。呼吸に関係する肋間筋や横隔膜や腹筋などの筋肉が麻痺すると呼吸が止まり,強制呼吸をさせなければ死に至ります。

乳児ボツリヌス症は、生後1週間から12カ月の乳児にみられます。ボツリヌス菌の芽胞が口から入り,ボツリヌス菌が大腸で増殖して毒素を産生して起こります。乳児にハチミツを与えることが原因となります。便秘がみられる場合が多く,その後一般のボツリヌス菌による食中毒と同様な症状が出ます。

 

4)予防等

ボツリヌス食中毒の原因食品としては,野菜,果物の自家製缶詰が多く、真空包装食品でも食中毒事例があります。1984年に発生した辛子蓮根による食中毒では、11名が犠牲になっています。ボツリヌスは土壌等にいますので、不潔な環境で食品の取扱うと、侵入を許してしまいます。pH4.6以上で水分含量が高い(Aw O.94以上)食品は、汚染を受けると原因食品になる可能性があります。ボツリヌス菌は本来土壌細菌で,芽胞の状態で広く分布しています。食品のpHを4.5以下にすることにより,ボツリヌス菌による毒素の生産を抑制できます。毒素は熱に弱いので,摂取前の加熱が効果的ですが、ボツリヌスの汚染を未然に防止し、毒素を産生させないことが必要です。

 

【参考文献】

1)C. Beach: Family of botulism victim seeks damages from gas station, Food Safety News, (2017年5月17日)

http://www.foodsafetynews.com/2017/05/family-of-botulism-victim-seeks-damages-from-gas-station/#.WSLez4VOJjo

2)東京都:食中毒の発生について~1歳未満の乳児にはちみつを与えないでください。~(2017年4月7日)

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/hodo/saishin/pressshokuhin170407.html

3)厚生労働省:真空パック詰食品(容器包装詰低酸性食品)のボツリヌス食中毒対策(2015年5月9日

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/03-4.html

4)宮本敬久:食品衛生学、東京化学同人(2016年)