株式会社 バイオ・シータ 食品細菌迅速自動検査システム DOX (DOX-60F DOX-30F) 一般生菌/大腸菌(群)を迅速に測定

第97話 「魚類の鮮度と品質評価

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司
一色先生の略歴
http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2022/4/1 update

  

 

 
 わが国の生食文化、特に魚介類の生食は徐々に諸外国にも受け入れられています。わが国の魚介類の安全性確保は、漁場から食卓までの清潔な魚介類の取扱いに支えられています。一方、魚介類への信頼性が低く、食物として好まれない国々もあります。水産物の品質確保・保持技術が、正確には理解されていない国々もあります。

 農林水産省は、水産物への理解と親しみを得て、輸出を増やそうとしています。その一環として、魚類の鮮度指標K値を普及させて「見える化」しようとしています。K値の測定法を、日本農林規格JAS として公式化する最終段階に至っています。魚類の鮮度やK値について考察してみましょう。

 

1) 魚類の品質と海外輸出の現状

 わが国では、昔から魚類を含む水産物を美味しく食べてきました。わが国では、魚類の品質保持に有効な「活〆」という技術が開発され、伝承されてきました。この技術では、即殺し、神経切断や血抜きのために刃物で傷を付けます。海外では傷が付いた魚は嫌われる傾向があります。

1970年代になりコールドチェーンと呼ばれる低温流通網は、日本の隅から隅まで整備されました。漁場から食卓までの水産物の品温を、低く保つことができるようになりました。

1990年代になり水産物が原因食品となる腸炎ビブリオ食中毒が増加しました。漁場や水揚げ場を含む環境の整備や使用水の清浄化が進められました。厚生労働省は、食品衛生法に基づいて水産物の規格基準の改定を行いました。これらの改善が効果を発揮し、以後、主に腸炎ビブリオを原因菌とする水産物による食中毒は減少しています(第19話参照)。国際的には、水産物による食中毒は減少傾向を示してはいません。

海外でも、「スシ」「サシミ」といった単語が通用するようになりました。水産物の美味しさが広く認められています。水産物の海外へ輸出は、2012年の1198億円から2021年には2335億円へと増加しています。海外では、多くの場合、水産物の品質を外見で判定されています。海外での外観評価に、さらに科学的判定根拠をもった評価を加えて欲しいと、わが国の水産関係者は願っています。

 農林水産省は海外の水産物品質評価に一石を投じるために、魚類の品質評価の一要因としての鮮度指標(K値)をJAS化により規定しようとしています。鮮度(K値)を示す数値は魚類によって異なりますが、データを蓄積することで魚類ごとに新鮮あるいは高品質である期間を容易に知ることができるようになります。

活〆により魚に傷があっても、K値により良い品質を維持する処理を受けた魚類であることが認知されるようになると期待されます。


2) K値について

魚類の品質において、鮮度は重要な要因となります。鮮度ですべての品質の良否を規定することはできませんが、生食の可否を判断する場合などは、産地や取り扱い情報などと同様に重要な要因となります。

実際の取引や購買では、目利きにより「活きの良さ」や「美味しさ」が判断されています。科学的根拠を求めて、魚類の死後の核酸関連物質の挙動の研究が北海道大学水産学部で行われました。

魚類の筋肉中には,アデノシン三リン酸(ATP、図2)という物質があり,魚の死後には下記のように代謝されます。

 ATP→アデノシンニリン酸(ADP)→アデニル酸(AMP)→イノシン酸(lMP)→イノシン(HxR)→ヒポキサンチン(Hx)

 

 
代謝される速度は魚種などによって異なりますが、HxRまでの経路は同じです。漁獲後に〆られ即殺された魚にはATP、ADP、AMPが多く、時間が経つにつれてIMPが増加し,最後にはHxRやHxが増えます。

K値を次のように定義すると、魚体の死後の経過とともにK値が増えて行きます。

 K(%)=(HxR十Hx)/(ATP+ADP+AMP+IMP+HxR +Hx) X100

 K値はATPとその分解生成物全量に対するHxR+Hx量の百分率になります。その値が小さいほど鮮度が良好であることを示します。昔から「腐ってもタイ」と言われるように,タイはHxR+Hx量は増えにくい特性があります。その一方、タラは「タラの沖汁」と言われるように、HxR+Hx量は増え易すく、傷みやすい特性があります。

魚類の品質、特に鮮度に関して,斎藤らによって提唱されたK値が指標として有用であることが認められています。

 

3)魚類の鮮度(K値)試験法―HPLC法のJAS規格案

図3に示したように農林水産省は、K値の測定法のJAS化を進めています。提案された試験法は、官報に告示されパブリック・コメント募集の手続きが取られています。概要は、図4のとおりです。

 

 

 

HPLC法で得られる典型的なクロマトグラムは図5(クロマグロ)、図6(ヒラメ)が示されています。

 




 科学的根拠を持つ、魚類の品質評価、特に鮮度評価が期待されます。注意すべきは、鮮度という言葉の使い方です。新鮮さFreshnessとして、漁獲・収穫後の時間が短い意味で使われる場合もあります。食品の場合は、熟成させて良い品質となる場合が多いので、鮮度が品質と一致しない場合が多いことを忘れないようにしましょう。

 魚類の多くは、死後硬直後を経てうま味成分が増えてきます。その増え方や減り方も、活き〆即殺の場合と、時間をかけた苦悶死の場合や、温度等の環境の違いによって異なります。これらの情報や現地・現物の目利きの活用により、K値利用の意義は高まります。

 わが国では、鮮度に関する商業上のこだわりも見られます。本来、鮮度は生鮮食品の新鮮さを表す概念ですが、最近は貯蔵食品や加工食品にも使われ混乱を生じています。最悪のケースは、汚い海で育てた魚のように見かけは良いが病原体が付着している等の安全性を無視した「鮮度」宣伝が行われることです。    

消費者を欺くような鮮度宣伝は、犯罪行為です。ノロウイルス等の病原体は、鮮度の高い水産物にも付着して被害を及ぼすことがあります。寄生虫アニサキスなどは、(新)鮮度が高い魚類ほど元気が良い状態を保っています(第84話)。「サバの生き腐れ」という言葉で伝えられるヒスタミン対策も、忘れないようにしましょう(第44話)。

見かけの良さへのこだわりも大事ですが、漁場から食卓までのリスク管理に努めることが優先されるべきですね。

 

参考文献:

1)農林水産省:日本農林規格の制定について、2022年2月22日
https://www.maff.go.jp/j/jas/kaigi/attach/pdf/bunkakai_220222a-11.pdf

2)農林水産省:日本農林規格(案)、魚類の鮮度(K 値)試験方法― 高速液体クロマトグラフ法
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000229410

3)木村邦夫:水産物の高品質維持・加工技術について、第1回  鮮度が良いとは、(一社)大日本水産会魚食推進センター、2021年9月、
https://osakana.suisankai.or.jp/business/5225

nach oben