株式会社 バイオ・シータ 食品細菌迅速自動検査システム DOX (DOX-60F DOX-30F) 一般生菌/大腸菌(群)を迅速に測定

第96話 2021年の食中毒について

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司
一色先生の略歴
http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2022/3/1 update

  

 

2021(令和3)年の食中毒発生状況が、厚生労働省から食中毒統計の速報として発表されています。その概要を表1に示しました。

すでに2年も前になりますが、2020年1月にわが国でも新型コロナウイルス感染症COVID-19が、発生しました。大型観光船での集団発生もあって、その対策が困難であることが認識され、国が主導する強い対策が取られるようになりました。

COVID-19への対策が国民的規模で実施され、2020年における食中毒も大幅に抑制されるように見えていました。結果としての抑制幅は、第86話でお話しましたように、大きくはありませんでした。その大きな原因は、例年にない「その他の病原大腸菌」による多数の食中毒患者の発生でした。厚生労働省の食中毒統計では、「その他の病原大腸菌」は「Vero毒素産生腸管出血性大腸菌を除く病原大腸菌」とされています。2021年の食中毒について振り返ってみましょう。

 

1) 2021年の食中毒

表1のように、2021年の食中毒は事件数586件、患者数10.293人でした。2020年の報告値と比較すると、事件数は59%、患者数は70%に減少していました。多くの分類項目で減少していました。細菌性食中毒は、事件数は10%増加していましたが、患者数が39%に減少していました。この患者数減少の原因となったのは、2020年には患者数が6,000人を超えた「その他の病原大腸菌」による食中毒の患者数が362人に減ったことでした。

 


一方、表1の病因物質が不明な食中毒として2,050人もの患者数が計上されています。内訳を表2に示しましたように、2021年6月16日に富山県の学校給食等で飲まれた牛乳で1,896名もの患者が出ています。マスコミの報道では、病原大腸菌が原因菌として推定されていましたが、病因物質が特定には至らず、病因物質不明のままになったようです。

 

 


 

図1に食中毒事件数の年次変化、図2に患者数の年次変化を示しました。「寄生虫アニサキス」と「その他の病原大腸菌」による食中毒を除外すると、2020と2021年の食中毒は事件数も患者数も減少していました。

わが国では2020年1月に、初めてのCOVID-19の患者が確認され、その後、大型観光船などでの患者の発生が起こりました。COVID-19の対策に国を挙げて取り組みましたが、沈静化せずに4月9日には東京都などに緊急事態宣言が発令されました。COVID-19対策は、食中毒の発生数は減少し、良い影響を与えたと考えられます。


 

2)2021年の食中毒の病因物質

 表3に2021年の微生物性食中毒の事件数と患者数を病因物質ごとに示しました。例年に比べ事件数と患者数ともに減少していました。サルモネラ属菌による1名の死亡者が報告されています。

2021年のノロウイルス食中毒は、前年から事件数は386件から348件、患者数は3,660人から4,564人に変化していました。COVID-19対策はノロウイルス対策にも良い影響を及ぼして、例年よりも図1と2のように抑制されていると思われます。患者数が増加したことには注意が必要です。ノロウイルスは強い感染力をもっていますので、清潔な暮らしに務め、特に、手洗いや消毒を続けることが必要です。

 

表4には、寄生虫、自然毒、化学物質による食中毒と病因物質が不明の食中毒の例数をしました。学校給食に使われた牛乳による食中毒で2,050人もの患者が報告されています。この事例が影響して不明と分類された患者数が例年よりも増加していますが、他の分類は例年よりも少なくなっています。死亡例として、イヌサフランの誤食による1名の死亡が報告されています。自然毒食中毒に関する普及啓蒙も、さらに必要だと思われます。

 

 

 図3には、食中毒が疑われる体調不良が発生した場合の原因追及の概念図が示されています。この図の著者は米国の方ですが、国際的にも図3のような手順で原因追及が進められています。

 体調不良を感じても、病院に行かずに我慢する人もいます。自分で薬を買って治療を試みる人もいます。我が国では、病院に行ったとしても、診察した医師が食中毒あるいはその疑いを保健所に届けなければ、食中毒の調査は始まりません。図3のように、検査でも病原体が特定される例数は、実際の食中毒発し数よりも少ないと考えられます。米国などでは、検査でも特定できた例数に、係数をかけた推計値を発表して、食中毒への注意喚起を行うことがあります。

 わが国でも、実際の食中毒発生件数は表1の厚生労働省への届け出は氷山の一角のように考えられます。食中毒や病原体対策を始めとする各種の変化は、これからも続きます。「諸行無常」です。飢えることもなく、食中毒や病原体に苦しむこともないように、皆で協力してフードチェーンを支えて行きましょう。

 

参考文献:

1) 厚生労働省:食中毒統計資料、(1)食中毒事件一覧速報、令和3年(2021年)食中毒発生事例(速報)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html

2) E.J.Scallan Walter, et al.: Estimating the Number of Illnesses Caused by Agents Transmitted Commonly Through Food: A Scoping Review, FOODBORNE PATHOGENS AND DISEASE, 18, 841-858(2021).

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