株式会社 バイオ・シータ 食品細菌迅速自動検査システム DOX (DOX-60F DOX-30F) 一般生菌/大腸菌(群)を迅速に測定

第92話 「米国でもコロナ対策で微生物性食性病害が減少

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司
一色先生の略歴
http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2021/11/1 update

  

世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策が実施されてきましたが、米国では図1のように70万人を超す犠牲者が出ています。

わが国の食中毒の発生状況を、第90話(2021年9月)、第86話(同年5月)で取り上げました。2020年に入り、COVID-19対策に国を挙げて取り組みました。2020年3月以降の食中毒の発生状況は、幸いにも2019年以前よりも抑制的に推移しています。

この現象はCOVID-19対策に、国民各位を始めとして、フードチェーンの関係者が努力したことが、良い影響として表面化していると思われます。最近、表1や図2のように、米国でも同様の現象が観察されていることが報告されました。

 

1) 米国食品媒介性疾患アクティブ調査ネットワークの報告

米国での、食品を介して感染する病原体によって引き起こされた食性病害についての報告が9月末に行われました。COVID-19パンデミック(世界的大流行)中に、疾病管理予防センターCDCを中心とした調査結果の報告です。

 


わが国での食中毒の調査は、患者を診断した医師による衛生当局への報告に基づいて行われています。この手法は、受け身的パッシブ調査と呼ばれています。

米国での調査は、医師からの届け出のみならず、疫学者らの積極的調査により、表面化していない患者や感染者などの掘り起こしも行われます。全米全土をくまなく調査することは、物理的にも不可能であるため、10地域を指定して、精密な調査が実施されています。この手法は、積極的アクティブ監視調査と呼ばれています。

米国政府は、「病原体によって引き起こされる食中毒で、毎年900万人が発症し、56,000人が入院し、1,300人が亡くなっている」と推定しています。10地域の積極的調査を基にして、全国民数当りに推計した値が報告されています。

わが国では、受け身的調査が行われており、微生物性食中毒の例年の患者数は、2万人程度、死者は多くて数人です。米国の人口は、わが国の3倍弱です。両国の報告値に大きな違いがあります。調査方法が異なっていることに留意し、単純な比較を行うべきではありません。

今回の報告は、米国疾病管理予防センターCDCを中心として運営されているFoodNetを使って行われています。対象にされた病原体は、表1の7つの細菌群と1つの寄生性原虫サイクロスポーラですが、わが国ではサイクロスポーラは問題になっていないため、ここでは省略しています。

表1は、病因細菌群ごとに、食品媒介性疾患と診断とされた患者数等と変動(減少)率を示しています。減少率は、2017〜 2019年の3年間の平均患者数に対する2020年の患者数の百分率%で示されています。

米国でも、2020年からCOVID-19が蔓延して、その対策が取られています。表1には、7つの細菌群によって発症した患者数は、10~41%減少したことが示めされています。



 図3は、2017年から2020年までの各年について、7つの病原体に感染していると診断された人数の推移を示しています。2020年の感染者数は、2017年から2019年の感染者数よりも減少していました。カンピロバクター属菌、リステリア モノサイトゲネス、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌、赤痢菌の場合は、2017年から2019年までの感染者数と、2020年の感染者数に統計的な優位差が認められています。ビブリオ属菌やエルシニア属菌の場合には、有意差は認められなかったと報告されています。

 

 図4は、患者総数、入院患者数、海外旅行をした発症者数の月別変化を示しています。

2020年の患者数は、1月と2月以外は、2017年から2019年の感染者数よりも減少していました。入院患者数は、変化が見られませんでした。海外旅行に関係する発症者は、海外旅行が制限されたため、大きな差が観察されています。

 

2) ノロウイルス感染症も減少

図1は10月14日の報告です。米国では、ノロウイルス感染症についてもCDCを中心にモニターして集計し、NoroSTATとして報告しています。2020年3月からは、ノロウイルス感染症の報告件数は減少し始め、例年よりも減少したままの状態が続いています。COVID-19蔓延防止対策を米国政府が呼びかけた時期と、ノロウイルス感染症の報告件数が減った時期が一致します。

 

図5は、わが国の国立感染症研究所のノロウイルス感染症発生件数の推移の報告です。米国と同様に2020年3月からは、ノロウイルス感染症の報告件数は減少し始め、例年よりも減少したままの状態が続いています。

COVID-19蔓延対策を政府が呼びかけた時期と、ノロウイルス感染症の報告件数が減った時期が一致します。日米に共通する微生物性食性病害の減少は、COVID-19対策に、国民各位を始めとして、フードチェーンの関係者の努力の結果だと思われます。

 

 米国の報告書には、長年減少しなかった食性病害が、COVID-19対策の影響を受けて減少したと書かれています。新型コロナウイルスもノロウイルスも、食中毒細菌も、変異したり、環境に適応したりして、生き延びようとします。我々も、食べ続けるためにも、油断せずにフードチェーンを大切にして行きましょう。 

 

参考文献:

1)L.C. Ray, et al.: Decreased Incidence of Infections Caused by Pathogens Transmitted Commonly Through Food During the COVID-19 Pandemic — Foodborne Diseases Active Surveillance Network, 10 U.S. Sites, 2017–2020,
Morbidity and Mortality Weekly Report, Vol. 70, No. 38,1332-1336,September 24, 2021.

2)CDC: The total number of suspected and confirmed norovirus outbreaks reported each week by states participating in NoroSTAT. October 14, 2021
https://www.cdc.gov/norovirus/reporting/norostat/data.html

 

 

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