株式会社 バイオ・シータ 食品細菌迅速自動検査システム DOX (DOX-60F DOX-30F) 一般生菌/大腸菌(群)を迅速に測定

第89話 「大規模な食品リコールの背景-リステリアへの恐怖

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司
一色先生の略歴
http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2021/8/1 update

  

 

暑中お見舞い申し上げます。

わが国では、新型コロナウイルスや熱中症対策下で開催されたオリンピック・パラリンピックの成り行きが心配されています。食中毒対策も必要ですね。

米国では、図1のように、鶏肉製品の大規模リコールが行われています。その量は、900万ポンド(4,000トン)にも及んでいます。患者数3人・死者1名のリステリア モノサイトゲネス(Lm)による食中毒(図2)の原因追及と、公的機関による日常的な市販品のモニタリング調査の両者から、リコールが必要と判断されました。

Lmによる食中毒は、わが国では、過去に1例しか報告されていません。しかし、世界各国では死者や流産を伴う深刻な食中毒として知られ、恐れられています(第48話)。南アフリカでは、2017年から2018年にかけて1,060名が発症し、216名が死亡したLm食中毒が発生しています。原因食品は、鶏肉を使ったソーセージでした。新型コロナウイルス対策と同様に、自分事として予防を忘れないようにしましょう。

 

 

1)Lm食中毒の発生とリコール

2021年4月6日から6月5日までに図2のように、テキサス州で2人、デラウェア州で1人のLm食中毒が発生しました。3人とも入院して治療を受けましたが、テキサス州の患者は死亡しました。原因調査には、PulseNetシステムが使用され、全ゲノムシーケンシング(WGS)による遺伝子解析も行われました。WGSは、病因物質が同一のLmであることを示しました。

一方、米国農務省食品安全検査局USDA-FSISは、定期的な製品試験で調理済み(RTE、Ready To Eatの鶏肉製品の2つのサンプルから、食中毒由来のLmと同じ株を検出しました。食中毒疫学データからも、同等品であるRTE鶏肉を食べることでLm食中毒になる可能性があることが示されました。その結果、冷凍されていた関連製品を含めて4,000トンにも及ぶ大量のRTEチキンがリコールされています。

 

 

2)Lmについて

 図3は、Lm食中毒の特徴です。世界各国で多くの食中毒例が報告されています。わが国の環境にもLmは分布しています。食品からもLmは検出されます。食料自給率が低いわが国の輸入時の検査でもLmが検出されることもあります。

Lmは胞子を作りませんが、環境適応性に富んでおり、特に低温下でも増殖する能力を有しています。 図3に示したように、感染してから発症するまでの潜伏時間が数週間を要する場合もあります。リコールされた製品のいずれかを食べた人は、Lmにさらされてから発症するまでに、最大70日かかる可能性を見込んで観察する必要があり、CDCは医療関係者に注意を呼び掛けています。国民には、リコールに該当する鶏肉製品は廃棄し、特に冷凍庫に眠っている鶏肉製品も点検し、廃棄することを勧告しています。




 

3)食品の品質・利便性とLm対策

 表1は、食品の品質構成要素を示しています。安全性や栄養性などの基本的特性が優先されますが、食べる各個人の好みは千差万別であり、こだわりも満足させる必要があります。

時代とともに安全性を高めるための加工や調理を最小限にし、時間をかけずに簡単に食べられる食品群が増えてきました。RTEReady To Eatと呼ばれる食品群です。今回の食中毒の原因食となり、大規模リコールの対象となった鶏肉製品もRTEです。工場で大量に調理され、冷凍され、貯蔵されたものです。すぐに食べられるように出荷前に解凍され、冷蔵で流通される場合もあります。

LmはRTE食品でも、図4のように、食中毒やリコール事件の原因となります。胞子を作らないので、加熱できる製品であれば十分な加熱と、その後の衛生的な管理の連続でLmの管理は可能です。言い換えると、加熱後の食品でLmが生存していれば、加熱不足か加熱後の衛生管理の失敗が生じています。

加熱できないRTE食品の場合は、「農場から食卓まで」の衛生管理の徹底が、加熱食品よりもより一層、必要です。良い原材料を、清潔なフードチェーンの環境で、食品衛生のトレーニングを受けた従業員が加工し、清潔な状態を保って消費者に届ける必要があります。

 

 

加熱殺菌などの強い処理を避け、風味を保ち、美味しさを損なわないための技術開発が続けられています。図4にLmなどの対策として実用化が試みられている技術を紹介しています。食品は種類も多く、制御対象となる病原菌も多種多様です。より美味しい、より生の原料の良さを残しているなどの品質を確保しつつ、安全性を確保する技術開発が行われています。コストの問題もあり、実用化には超えるべき多くのハードルが残っています。

 

 

図5には食品に新しい技術を導入する場合の点検すべき項目を示しています。眼に見えず、汚染していても食品の色・味・香りなどが変わらない病原菌の制御は一筋縄では成功しません。

 食品衛生法などの法的規制を遵守する必要があります。わが国では放射線による食品の殺菌は認可されていません。抗菌性物質の利用にも注意が必要です。図4に示された技術を導入する場合には、担当保健所の食品衛生監視員に法的な妥当性を確認することを忘れないでください。輸出する場合には、相手国の法律に抵触しないことも確認してください。

図4の個別技術だけでは、RTE食品などの安全性と品質の確保は困難です。物理的手法だけではなく、発酵などの生物的手法、添加物の利用などの化学的手法と組合せて、安全で高品質な食品の安定供給を目指していただきたいと思います。気候変動に伴うフードチェーンの変動などにも、気を付けながら対応して行く必要がありますね。

 

文献:

1) C. K. Tchatchouang, et al: Listeriosis Outbreak in South Africa: A Comparative Analysis with Previously Reported Cases Worldwide, Microorganisms, 8, 135-153(2020)

2)A. Bahramia, et.al.: Efficiency of novel processing technologies for the control of Listeria monocytogenes in food products, Trends in Food Science & Technology, 96, 61-78(2020)
https://doi.org/10.1016/j.tifs.2019.12.009

3)農林水産省:食品安全に関するリスクプロファイルシート、リステリア・モノサイトゲネス
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055260.html

 

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