株式会社 バイオ・シータ 食品細菌迅速自動検査システム DOX (DOX-60F DOX-30F) 一般生菌/大腸菌(群)を迅速に測定

第86話 「2020年の食中毒について

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司
一色先生の略歴
http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2021/5/1 update

 

 

2020年における食中毒は、新型コロナウイルスへの対策が国民的規模で実施されたことから、大幅に抑制されるように見えていました。結果としての抑制幅は、大きくはありませんでした。その大きな原因は図1に示すように、例年にない「その他の病原大腸菌」による食中毒患者の多数発生でした。

食中毒統計では、「その他の病原大腸菌」は「Vero毒素産生腸管出血性大腸菌を除く病原大腸菌」とされています。図2は、2020年までの食中毒事件数の変遷です。2020年の食中毒について考察してみましょう。

 

1) 2020年の食中毒

表1のように、2020年の食中毒は事件数887件、患者数14,613人でした。2019年の報告値と比較すると、事件数は91%へ減少していましたが、患者数は129%に増加していました。表1のように細菌性食中毒の患者数が211%も増加していることが影響していました。この患者数増加の原因となったのは、「その他の病原大腸菌」による食中毒でした。

 表2に2020年の細菌性食中毒の事件数と患者数の病因物質ごとの数字を示しました。「その他の病原大腸菌」による食中毒の患者数が6,284人も報告され、2019年の1680%にも増加していました。サルモネラ属菌による食中毒も増加していました。

 例年多くの患者数をもたらすカンピロバクター属菌食中毒は、2019年に比べて、2020年の患者数は50%減少した901人でした。

表3は、2020年の食中毒のうち、表1に示した細菌性食中毒を除いたものを示しています。図2、表2および3のように、事件数の上位の病因物質は、アニサキス386件、カンピロバクター182件、ノロウイルス99件でした。ノロウイルスは、2001年から患者数第1位の状況が続いていましたが、2020年では図1のように第2位になっています。「その他の病原大腸菌」による食中毒の患者数が多かったことや、新型コロナウイルス対策が影響したと考えられます。ノロウイルスは強い感染力をもっていますので、清潔な暮らしに務め、特に、手洗いや消毒を続けることが肝要です。

食中毒による死者の発生状況は表4に示しました。いずれも家庭での食事で、死者が発生しています。自然毒食中毒に関する普及啓蒙も、さらに必要だと思われます。



2)食中毒の経年変化

食中毒患者数の経年変化は図1に、食中毒事件数の経年変化は図2に示しています。2020年の患者数の第1位は例年と異なり、その他の病原大腸菌6,284人でした。2位はノロウイルス3,660人、3位はウェルシュ菌1,288人、4位はカンピロバクター属菌901人でした。

表5は、2020年における500人以上の食中毒患者の事例の取りまとめです。学校給食で2,958名もの患者を出す食中毒が発生しています。病因物質は、病原大腸菌O7H4でした。原因食品は海藻サラダとされ、水戻しされた非加熱のワカメを使ったことに問題があったとされています。小生の経験では、大腸菌などが増殖するには、栄養条件が貧弱過ぎるように思われ、その一方で2,958人の患者を出すほどの菌量で海藻サラダを汚染させるには何らかの過誤があったように推測されます。

仕出し弁当が原因とされている食中毒では、当初150人程度の食中毒と報告されていました(https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/09/08/01.html)。

最終的に2,548人の患者数に増加しています。原因食品は、不明ながらも仕出し弁当であろうと推定されています。病因物質は、毒素原性大腸菌O25と報告されています。本件では、推定原因食品(仕出し弁当)を製造したメーカーから、ホームページで顛末の報告が行われています(http://www.tamagoya.co.jp/information/hokennjyotyousahoukoku/)。

両事例ともに、病因物質が腸管出血性大腸菌O157などの毒性の強い大腸菌であったならば、死者を伴う大型の食中毒に発展していた可能性もあったと思われます。

サルモネラ属菌による食中毒では、前年比181%の861人の患者が出ています。海外では、粉末化されたハーブなどの健康食品を含む多種多様な食品が原因と判明し、さらに、ペットを含む各種動物由来したサルモネラ症の報告も増えています。油断大敵です。

2020年11月に、東京の保育園で28名のヒスタミン食中毒が発生しました。原因食品は給食のきつねうどんでした。ダシパックの使い方が不適切として、営業停止6日間の措置が取られました。カツオブシのダシパックがヒスタミンの発生源であるという推定に疑念が持たれました。

その後、再現実験等が行われ、当該事業者に食品衛生法違反行為が認められず、営業停止処分が取り消されています。

(https://www.city.sumida.lg.jp/kenko_fukushi/eisei/syoku_eisei/sumidako/shokuhinneisei-ihan/syobunrestaurant.files/syobun_torikeshi0416_2.pdf)

 

 Codex国際食品規格委員会では、「食品衛生の一般原則」を改訂し、付属文書であったHACCPの関連文書を第2章として本文に組み込んでいます。改正食品衛生法のHACCPによる衛生管理の制度が、経過措置期間を終わり、本年6月1日に全面実施されます。Codex「食品衛生の一般原則」と内容が整います。一般衛生管理を行い、HACCPを導入することが必要となります。自主的衛生管理手法ですので、事業主を先頭に「食品安全文化」を維持し続ける意志表明を行うことも大切です。

2020年は、新型コロナウイルス感染症が国際的な問題となりました。2021年になると、変異株対策などの課題が増え、さらに冷静な対応が求められています。我が国でも、国内での感染者の発生に加えて、東京オリンピック・パラリンピックへの対応の問題も抱え、今後の展開が心配されています。

 病原体対策を始めとする各種の変化は、これからも続きます。「諸行無常」です。飢えることもなく、食中毒や病原体に苦しむこともないように、皆で協力してフードチェーンを支えて行きましょう。

 

参考文献:

1) 厚生労働省:食中毒統計資料(2020年4月20日)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html

2) 埼玉県:埼玉県内の学校給食で発生した病原大腸菌食中毒について

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000756179.pdf

 

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