株式会社 バイオ・シータ 食品細菌迅速自動検査システム DOX (DOX-60F DOX-30F) 一般生菌/大腸菌(群)を迅速に測定

第83話 「食品取扱い施設における新型コロナウイルス感染の制御

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司
一色先生の略歴
http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2021/2/1 update

  

 

 

はじめに

 2020年1月に厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症COVID-19が中国で流行していると注意喚起を行いました。早いのもので、1年が経過しました。当初は、病因物質である新型コロナウイルスSARS-CoV-2の科学的な情報が少なく、対応に混乱を生じました。患者さんの治療に加えて、科学的な調査研究も続けられています。ワクチンや治療法も試行が続いています。

図1のように、全世界にCOVID-19は拡散し、終息の様子は見せていません。ウィズコロナ時代が続きそうです。従属栄養生物である人間は、フードチェーンが途絶えると生きては行けません。フードチェーンの担当者は、エッセンシャルワーカーです。食品取扱い施設では、食品衛生的な対策と、従業員のSARS-CoV-2感染防止への対策が必要です。対策を考察してみましょう。

 

 

1) COVID-19対策と食品衛生

図2は、2020年のわが国の食中毒の発生状況を伝える新聞記事です。全国民がSARS-CoV-2を恐れて感染対策を取ったことが幸いして、食中毒の発生件数は例年よりも少なく推移しています。ノロウイルス食中毒の患者数も、SARS-CoV-2対策の開始に呼応するかのように少なくなっています。食中毒対策としては、この好ましい状態が続き、COVID-19は終息し、他の病原体による同時大流行パンデミックも起こらないことを期待しましょう。

農場や漁場を含む食品取扱い施設の従業員は、食品衛生的な教育訓練を受けて仕事を行うべきです。畜産関係者は、特に、人獣共通感染症(動物と人間の間で伝染する病気)のリスクを学んでおくべきです。SARS-CoV-2を含むウイルスは宿主生物の範囲が狭く、ヒト集団での感染維持と、生活環境および食品取扱い作業環境でのウイルスへの感染は、主に、直接的な人から人への飛沫感染、接触や糞口感染に依存しています。個人の衛生状態の悪さ、汚染された物体との接触、または空中伝播が関係します。

いくつかの大きなCOVID-19のクラスターは、アジアの伝統的な食品市場、水産加工施設、および北米とヨーロッパの大規模な工業化された食肉加工施設などで発生しています。図3は、COVID-19のクラスター発生を反省して作業者間に透明の仕切り板を配置するなとの改善を行った例てす。

 

 SARS-CoV-2を、冷凍食品の包装からPCR用いて検出したとの報告がありますが、汚染された食品や食用動物から人間への伝播を確認した調査結果はないようです。



2) スーパースプレッダーイベント(SSE)

  ウイルスの感染を減らすためには、物理的な距離を取る、大人数の集まりを避ける、フェイスマスクを着用するなどの対策に効果があることが分かってきました。

 全てのSARS-CoV-2感染者が、同様に他人を感染させるのではなく、感染した個人の約10%が新たな感染の約80%に関与していることも分かってきました。新たに感染した人が多くの人に感染をもたらす現象は、スーパースプレッダーイベント(SSE)と呼ばれています。SSEに関与する要因はまだ良く分かっていませんが、隔離措置が有効であることは分かっています。

大規模な感染クラスターの発生には、3つの要因「①SARS-CoV-2の特性、②宿主としての人と社会的行動、③環境条件」の相互作用が起きている可能性があります。

 

3) 病原体の特徴

 SARS-CoV-2は、エンベロープを持つRNAウイルスです(第73話)。ノロウイルスは、エンベロープを持たないためアルコール消毒に抵抗性を示します。SARS-CoV-2は、ヒトのアンジオテンシン変換酵素2受容体に特異的に結合します。 この受容体はさまざまな組織の細胞に存在し、肺、血管、小腸、その他の臓器の内側を覆う細胞で高度に発現しています。

 

4) 宿主としての人間

 SSEに影響を与える宿主因子は、宿主の生物学的反応に関連するものと宿主の行動に関連するものの2つのカテゴリーに分類できます。 

SARS-CoV-2粒子は、飛沫やエアロゾルなどの呼吸器からの排泄物や糞便から排出されます。 これらの排泄物に存在するウイルス量は個人によって異なり、SSEでは多くのエアロゾル粒子を生成します。 エアロゾル放出に寄与する他の要素には、病気の段階、発話量、および未知の生理学的要因が含まれます。SARS-CoV-2は、感染の初期、発症前、感染中の全期間、または回復中に無症状のままで、環境中へ放出される可能性があります。 SARS-CoV-2の糞便への排出は、対策を取っていないと糞口感染を引き起こす可能性があります。

 ウイルスの無症状での排出は、感染を減らすためには難しい課題です。効果的な制御には、すべての人がウイルス感染防止対策を実践する必要があります。人から人への感染は、感染した個人の行動、特に感受性の高い集団内での感染した人への距離、および感染を防ぐために取られる予防措置の程度に依存します。

マスクなどで口が覆われていない場合、咳やくしゃみは、気流に応じて7〜8 mまで粒子を拡散させる可能性があります。騒々しい食品取扱い環境では、より大きな声で話すことで、多くの粒子が放出されます。感染を引き起こすのに必要なウイルス曝露の量はまだ不明です。口と鼻をマスクで覆うと、SARS-CoV-2の感染を大幅に減らすことができます。マスクは、感染リスクに応じて正しく着用すべきです。

食品取扱い管理区域での作業中も感染防止対策は必要ですが、施設への出入りなどの移動中、休憩や食事中などでも、従業員の距離を取るなどの行動は重要です。クラスター発生の原因となる行動が起こり易いことを従業員も理解すべきです。

 食品取扱いにおける従業員がSARS-CoV-2に暴露される量を減らす努力を続けることが必要です。従業員同士の距離を取るなど構造的、機械的見直し、または作業の見直しの必要があります。見直しは食品取扱いエリアへの適用のみならず、他のすべてのエリアに適用する必要があります。作業担当時間・シフトの工夫と調整により、入口、出口、更衣室、または休憩室での授業員や外来者の混雑、三密を減らすことができます。

 

5) 環境

  食品取扱い施設の環境条件が悪いと、病原体の生存と蔓延を助長する場合があります。作業の種類、換気、温度、湿度、エアロゾルの形成、液滴のサイズ、液滴の拡散などが、SARS-CoV-2の生存率に影響を与えます。図4のように食品取扱い環境では、水分がSARS-CoV-2の従業員への暴露を助長する可能性があります。多くの場合、原材料等を水で洗ったり、環境や機器・器具を洗浄したりするために大量の水が使われます。

 

 食品加工工場で高湿度になることがあります。高湿度では、飛沫粒子サイズが大きくなり、拡散が減少しますが、SARS-CoV-2感染におけるエアロゾルと飛沫の寄与は完全には理解されていません。実験室の観察ですが、エアロゾル中または銅に付着したSARS-CoV-2の1%未満が8時間後も感染力を維持した(21〜23°C、相対湿度40%)のに対し、ステンレス、プラスチックおよび段ボールなどでは、20、37、および44%が8時間後にも感染力を維持していました。

近縁のヒトおよび獣医領域のコロナウイルスの報告では、いくつかのウイルスが最大28日の間、低温(4°C)および高相対湿度(> 50%)で感染性を維持できることが示されています。コロナウイルスは低温、高湿度で持続しますが、高湿度は高温(> 20°C)でのウイルスの存続を阻害します。食品取扱い環境では、細菌の増殖を制御するために低温に維持されることが多い一方で、湿度は高く保つことがあります。たとえば、牛肉の乾燥熟成に必要な相対湿度は75〜80%です。大量の水と蒸気を使用すると、食品加工環境で湿度が高くなり、結露が発生することがあります。図4のように落下水や跳ね水が生じることもあります。

 

6) 自分事として 

 COVID-19症状のスクリーニングは、食品業界でも推奨されています。ただし、無症状の感染者、検査の精度、および病欠または欠勤に対する有償または不十分な補償のために隠蔽が行われるなどの限界があります。発熱は、感染の初期に現れるとは限りません。体温によるスクリーニングの感度は低いのですが、食品加工施設からの感染した従業員の一部を特定するのに役立つ場合があります。

 体調不良や感染の可能性を自主的に申告していただく事が必要です。申告し易い雰囲気を持つ職場になることがきたしされます。

 

 

社会全体としても図5に示したように、COVID-19がハイリスクとなる方々を守って行く必要があります。ハイリスクとなる方は、①高齢者、②糖尿病・心不全・透析等基礎疾患がある、③免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている、④妊婦等とされています。SARS-CoV-2は変異し易い性質もありますので、ハイリスクの方が増える可能性もあります。

表1のような対策を一人一人が自覚して、生活や行動を行う必要があると思います。食品取扱い施設の関係者も、職場内での24時間のSARS-CoV-2対策を取る必要があります。

 SARS-CoV-2に対する制御が可能になるまで、COVID-19感染症に耐えることが必要です。ウィズコロナの時代と言われますが、治療法が確立され、かつワクチンが実用化されるまでは時間がかかりそうです。

 食品取扱い施設あるいはフードチェーンの関係者であれば、食品衛生の知識や経験を活かして、他人事ではなく自分事としてSARS-CoV-2対策に取り組んでいただくことが期待されます。

  

参考文献:

1)WHO: Getting your workplace ready for COVID-19,2020. https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/ getting-workplace-ready-for-covid-19.pdf 

2) J.T.LeJeune,S.V.Grooters:Control of Virus Transmission in Food Processing Facilities, Food Protect. Trends, 41,163-171(2021)

3) 食品産業センター:食品製造業における新型コロナウイルス感染症感染拡大予防ガイドライン、2020年6月2日改訂
https://www.shokusan.or.jp/wp-content/uploads/2020/ 06/ki-20200603-1.pdf

4)日本経済団体連合会:新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン、2020年12月1日
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/118.html

 

 

nach oben