株式会社 バイオ・シータ 食品細菌迅速自動検査システム DOX (DOX-60F DOX-30F) 一般生菌/大腸菌(群)を迅速に測定

第81話 「加熱調理も慎重に-ウェルシュ菌とセレウス菌」

 

 

北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司
一色先生の略歴
http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2020/12/1 update

 

 食中毒は、加熱された料理を食べても、発生することがあります。図1はウェルシュ菌とセレウス菌による食中毒の報道記事です。英国とオーストラリアの出来事ですが、わが国を含む世界各国でも両菌による食中毒が発生しています。両菌ともに耐熱性の高い芽胞を作ることができます。加熱で親(栄養細胞)は死んだとしても、子(芽胞)は生き残ります。単純に加熱調理をするだけでは、これらの菌による食中毒は防ぐことはできないようです。

 

 

 

1)ウェルシュ菌とセレウス菌による食中毒発生状況

厚生労働省が取りまとめた2019年に発生したウェルシュ菌食中毒は22件であり、患者数は1,166人でした。同じく、セレウス菌食中毒は6件、患者数は229人でした。

 

 

本年2020年は、11月2日までの地方自治体から厚生労働省への届け出の様子は表1と2のとおりです。

図2のように、最近、救急救命士養成施設でもウェルシュ菌食中毒が発生しています。ウェルシュ菌は、人や動物の腸管や土壌、下水に広く生息しています。酸素のないところで増殖する菌で芽胞を作ります。芽胞は100℃、1~3時間の加熱に耐えます。食物と一緒に口に入り、腸管に到達したウェルシュ菌は毒素エントロトキシンを作り始め、食中毒を引き起こします。

しばしば集団給食や弁当で患者数の多い食中毒となることがあり、給食病と呼ばれることもあります。潜伏期は8~12時間で、下痢と腹痛を起こします。嘔吐や発熱は、まれです。原因食品として報告が多い例は、煮込み料理(カレー、各種煮物、つけ汁)などです。寸胴や大鍋の使用例が多いようです。

対策には、清潔を心がけ、調理後速やかに食べることが必要です。食品中でのウェルシュ菌の増殖を阻止するため、加熱調理食品の冷却は速やかに行う必要があります。食品を保存する場合は、10℃以下か60℃以上を保ちます。後述のWHOの勧告のように、リステリアやエルシニアによる食中毒の可能性も考慮すると5℃以下に冷却すべきです。再加熱する場合は、十分に加熱し、早めに摂食します。

セレウス菌も、土壌などの自然界に広く生息しています。食品中で毒素を産生することがあります。芽胞も作ります。芽胞は100℃、30分の加熱でも死滅しません。症状には、嘔吐型と下痢型があります。

嘔吐型食中毒の潜伏期は30分~3時間で、吐き気、嘔吐が主な症状です。下痢型の潜伏期は8~16時間で、下痢、腹痛が主な症状となります。原因食品になり易いのは、嘔吐型では焼き飯、スパゲティなどです。下痢型では、食肉、野菜、スープ、弁当などです。米飯やめん類の作り置きや常温放置を避ける必要があります。料理は放置せずに調理後は10℃以下で保存する必要があります。

 

 

2)「食品の加熱、加温、冷却について

  WHO世界保健機関は、図3のように5~60℃の温度域を危険ゾーンとして、食品を放置しないように勧告しています。食品の微生物学的安全性が確保できないからです。

 食品を5℃以下にするのは、リステリアやエルシニアのように低温でも増殖する食中毒菌もいるからです(第648話)。食品を60℃以上にするのは、ウェルシュ菌やセレウス菌が耐熱胞子を作り、食品を加熱した後でも、60℃以下の温度帯で出芽し、増殖し食中毒が起こるからです。

 2008年にドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は、食品を60℃以上ではなく65℃以上の温度に保つべきであるという意見を表明しました。ドイツでは、食品取扱い衛生ガイドラインに組み込まれました。最近、BfRは食品の加温温度の見直しを行いました。

図4は、BfRが予測微生物学的手法で最も耐熱性の強いセレウス菌B.cytotoxicusの増殖予測を行った結果を示しています。B.cytotoxicusは、フランスで多くの死者を出したセレウス菌食中毒から採取・分離され、現在はB.cereusから独立した種として分類されています。図4のように57℃以上になるとB.cytotoxicusも他のセレウス菌も増殖できない事が推測されました。

 

 

図5と6は、57℃の液体培地中のセレウス菌とウェルシュ菌(初発菌数 1CFU/g)を冷却した場合の菌数変化の予測微生物による推定モデルです。

図5は、6℃/時間の速度で冷却した場合の菌数変化です。図6は30分間かけて、57℃から 37℃まで冷却し、その後37℃で保持した時の菌数変化の推定モデルです。

いずれの場合も、セレウス菌もウェルシュ菌ともに、ラグフェーズ(増殖準備期間)はあるものの急速に増殖することが示されています。

 

BfRは、今年の8月に、食品の加温温度は60℃以上(57℃に3℃の安全幅を持たせて)で良いと判断を変えました。しかしながら、加熱後の冷却段階では、危険温度帯(10~60℃)に長く留まらないようにすることが重要であることを強調しています。

 米国FDAは 、加熱した食品を2 時間以内に 21℃以下に、4 時間以内に 5℃以下に冷却することを要求していいます。

 わが国の給食施設を対象とした「大量調理施設衛生管理マニュアル」では、30 分以内に 20℃以下に、1 時間以内に 10℃以下に冷却することとされています。

 速やかに冷却するためには、小さな容器に食品を小分けしたり、食品の入った鍋のあら熱を取り去った後に冷蔵したりするなどして、冷却ムラを防ぐことが重要です。真空冷却装置を用いて強制的に冷却している場合もあります。

 

 食品の加熱は、食中毒対策として有効な手段ですが、十分に加熱し、適切に保温または冷却する必要があります。現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)対策が必要な状況が続いています。このウイルス対策にも加熱は有効です。不活性化されたことを証明する実験が難しいため直接的な検証結果は示されていないようですが、表4に示したように加熱不活性化は有効だと推定されます。食品の加熱と冷却を適切に行い、SARS-CoV-2対策にも加熱を活用して感染を防止しましょう。

 

参考文献:

1) Prevention of Foodborne Illness When Keeping Food Hot Updated BfR Opinion No 037/2020 issued 27 August 2020

https://www.bfr.bund.de/cm/349/prevention-of-foodborne-illness-when-keeping-food-hot.pdf

2) 農林水産省:ウェルシュ菌、食品安全に関するリスクプロファイルシート、:2016年11月30日

https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/attach/pdf/hazard_microbio-4.pdf 

3) 農林水産省:セレウス菌、食品安全に関するリスクプロファイルシート、:2016年11月30日

https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/attach/pdf/hazard_microbio-6.pdf

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