株式会社 バイオ・シータ 食品細菌迅速自動検査システム DOX (DOX-60F DOX-30F) 一般生菌/大腸菌(群)を迅速に測定

第57話 「生食用キュウリの殺菌について」

 

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司

一色先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/ 

 



北米やEUでキュウリを原因食品とするサルモネラ属菌食中毒が発生していると、図1のようなニュースが伝えられています。我が国も、2014年に冷やしキュウリ、2016年にはキュウリの梅シソ和えによる深刻な腸管出血性大腸菌O157食中毒が発生しています。

 

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野菜や果物に,少量でヒトに感染する病原体が付着あるいは内在していることがあります。加熱せずに出荷され、加熱せずに食べられることがあるカット野菜やカットフルーツの製造工程には、キルステップKill-stepと呼ばれる効果的に病原体を殺菌できる行う工程はありません。少量感染菌を制御できる重要管理点CCPは存在せず、全ての工程で前提条件プログラムPPまたはPRPと呼ばれる一般衛生管理を行って安全性を確保することになります。従業員への注意を促すために、殺菌剤による殺菌工程を故意にCCPとしているカット工場もあります。今回は、キュウリを例として、殺菌剤による殺菌について考察してみましょう。

 

1)次亜塩素酸ナトリウム(Na)によるキュウリの殺菌

野菜や果物を生のまま食べる機会や量が増えています。図2は、東京都健康安全研究センターで行われたキュウリの殺菌実験です。殺菌処理前後の一般生菌数の変化を示しています。加熱食と比べて殺菌剤による殺菌効率は、図2に示されているように良くありません。比較対象(Control)としての水洗い大差はないようにも見えます。

 

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食品は、美味しさや、栄養性、嗜好性などを満足させる必要があるため、加熱温度と時間を制限する場合もあります。80℃のお湯に5分間の浸漬処理では、キュウリの食感に変化はなかったそうです。次亜塩素酸Na水溶液の濃度や浸漬時間を増やすと塩素臭が残る場合もあります。食品衛生法により、次亜塩素酸Na処理を行った場合は、食品製造用水ですすぎを行う必要があります。過酢酸製剤等を使用する殺菌も認可されていますが、次亜塩素酸Na処理と同様、加熱処理の効果には及びません。10月に米国FDAが発表した生食用野菜果物産業用の殺菌剤処理のガイドライン案では,次亜塩素酸Naの適正な使用が勧告されています。

 

図3は、大腸菌を故意に汚染させたキュウリを殺菌した場合の結果です。耐熱性の低い大腸菌は80℃、5分間の温度処理で効果的に菌数が低下していいます。次亜塩素酸Na処理は、生残する大腸菌が多いことが分かります。

 

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 図4は、2016年に発生したキュウリによる食中毒患者に由来するO157を用いて行った80℃、5分間のキュウリの熱湯処理による実験の結果です。実際に食中毒を起こしたO157に対しても効果的に殺菌できています。

 

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 表1は、ブランチングと呼ばれている熱湯を用いて野菜を短時間処理する手法の効果を確認した実験結果です。100℃で5秒の処理の方が、次亜塩素酸Na処理よりも効果的でした。キュウリも、レタスも、キャベツも同様でした。

 

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2)非加熱で野菜・果物を食べるために

 表2は1995年に、著者らが発表した焼成カルシウムを用いた殺菌手法の一部です。キュウリに適用した例を示しています。次亜塩素酸Na処理よりも効果的でした。欠点は、水に懸濁あるいは溶かすと次亜塩素酸Naよりは、強いアルカリ性を示すことです。管理された環境で、トレーニングを受けた従業員が使用し,作業事故を防止することが求められます。

 

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 この技術は、翌年1996年のかいわれ大根が原因食品として疑われたO157食中毒対策に応用されました。カイワレ大根が原因食とし疑われたことから,他の生食される野菜・果物も忌避されるようになりました。学校給食では、リンゴさえ湯通しが行われたこともありました。かいわれ大根をはじめとする芽物野菜の種の殺菌は特に困難でした。米国FDAは、2%次亜塩素酸カルシウム懸濁液を用いる殺菌を勧告しました。我が国では、農家で種を撒く前の消毒として行われていた温湯漬法(お風呂等を利用して低温殺菌)と焼成カルシウム処理の組合せ等が有効であることが分かり、次亜塩素酸Na処理とともにO157対策として応用されました。

 

前述のように,食品の殺菌は、殺菌効率だけではなく、美味しさ等の価値を保って実施する必要があります。1996年当時、Codexなどの対策会議では10の5乗の殺菌効果、10万分の1に菌数を減らす殺菌技術が必要という考え方が支持を得ました。万一、グラム当たり10の4乗個の病原体による濃厚な汚染を受けた場合でも、殺菌処理により1個未満にまで低減すべきというものです。現実には、濃厚に病原体汚染を受ける可能性は低いので、10の5乗の殺菌効率があれば、殺菌後の低温管理等による増殖を抑制し、安全性を確保する確率は高いとされました。

 

もちろん生食用野菜・果物の栽培農場から病原体汚染を防止することが必要です。カット野菜工場等では、清潔な環境を維持し、良い原料を、衛生教育・トレーニングを受けた従業員が製品化することが必要です。消費者も,清潔に取り扱って,食べることも必要です。

 

 生食は、加熱食よりも食中毒が発生する可能性は高くなります。フードチェーン・アプローチと呼ばれる「農場から食卓まで」の衛生管理の実施がキーワードだと思われます。

 

【参考文献】

1)US FDA: Guide to Minimize Food Safety Hazards of Fresh-cut Produce: Draft Guidance for Industry,2018年10月10日,

https://www.fda.gov/downloads/Food/GuidanceRegulation/GuidanceDocumentsRegulatoryInformation/UCM623718.pdf

2)浅沼ら:花火大会関連腸管出血性大腸菌O157 VT1&2集団発生事例-静岡市、病原微生物検出情報、36,80-81(2015)

3)平井ら:きゅうりのゆかり和えによる腸管出血性大腸菌O157の集団食中毒事例―千葉県, 東京都、同上、38,92-94(2017)

4) 一色:日本における生食文化と食品衛生,食衛誌、54 ,j1-6 (2013)

 
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