株式会社 バイオ・シータ 食品細菌迅速自動検査システム DOX (DOX-60F DOX-30F) 一般生菌/大腸菌(群)を迅速に測定

第40話「リステリア属菌環境モニタリング」

 

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司

一色先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 

 

 食品とともに口に入るListeria monocytogenes(Lm)の人体への侵入経路は、リステリア症対策として重要な経路です。食品にLmが混入しないように、農場から食卓まで対策を講じる必要があります。加熱しないまま食べるRTE(Ready To Eat)食品などは、リステリア対策が特に必要です。食品を取り巻く環境にはLmがいると思って対策を考える必要があります。今回は、リステリア属菌環境モニタリングについてお話します。このモニタリングはRTE食品などのリステリア対策に有効であり、米国やEUでは実施していない場合、リスク管理が不十分とみなされます。

 

1)リステリア症の発生状況

欧州(EU)では、図1のようにリステリア症が増加していると報告されています。我が国の食中毒調査は、受け身調査で、診察した医師の申告に基づいています。我が国では、病院からのリステリア症の報告はあるものの、これまでの食中毒としての報告は、平成13年の1例のみです。この1例も、厚生科学研究による遡り調査で明らかになったものです。我が国のリステリア症の発症率は、低い訳ではありません。厚労省のよる病院でのリステリア症の診断調査における発症率は1.4人/100万人(平成20年~23年調査の平均値)です。油断大敵です。

 

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米国では能動調査が行われています。全米10地域を疫学者が中心となって積極的に調査し、病院に行かない患者数も推計を行って、最終的に全米の全人口への推計を行います。米国疾病管理センター(CDC)は、毎年1600人が重症のリステリア症となり、約260人が死亡していると報告しています。米国ではLm対策に多くの努力が払われていますが,表1のように健康被害や製品回収・リコールが相次いでいます。表2は,5月分だけのFood Safety Newsに掲載されたLm関連の記事の一覧です。

 

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2) リステリア属菌環境モニタリング

Lmが属するリステリア属菌(Listeria spp.)は自然界に広く分布しています。フードチェーンにも侵入し易い細菌です。動物の生活環境のみならず、食品工場の内外でも、検出されることもあります。侵入を受けた食品取り扱い施設からLmを根絶することは、極めて困難と言われています。

Lm対策には、まずLmを知る必要があります。表2にLmの細菌学的特徴を示しました。本コラムの第6、12、16、11、30話も参考にしてください。Lmは、環境中に広く存在する菌です。Lmに汚染されていない食品を消費者に提供するためには、良い原材料を用いて、清潔な環境で食品衛生のトレーニングを受けた従業員が食品を取り扱う必要があります。特に、RTE食品へのLm汚染防止するためには、汚染源や隠れ家を調査し、重点的なクリーニングおよびサニテーションを実施することが必要です。

 

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このモニタリングは、対策の前提条件プログラム(PRP)の構成要素として位置づけられます。Lmの検査は技術とコストと時間を必要とするため、モニタリング対象はリステリア属菌です。リステリア属菌が検出されると、Lmがいる可能性があり、クリーニングおよびサニテーションが必要です。サルモネラ菌属などの他の環境由来の微生物と組み合わせて実施される場合もあります。サルモネラ菌属と組み合わせた場合の実施例を図2に示します。

 

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3) FDAのLm対策ガイドライン案(2017)

 米国ではLmによる感染症の増加とリコール・製品回収される食品の増加を食い止めるための施策が強化されています。RTE食品のように、加熱されずに摂食される食品では、食品取扱い施設からLmが検出されることによるリコールもあります。米国食品薬品庁FDAは、2017年1月に

「産業向けガイド:RTE食品のLm対策」の案を発表しています。7月までパブリックコメントを受け付けています。

この案に、リステリア属菌環境モニタリングが取り上げられ、実施が推奨されています。適切にデザインされた環境モニタリングプログラムは、製品汚染を引き起こす可能性のある環境条件の認識や気づきをもたらし、最終製品の検査だけでは達成できない、より効果的なプログラムとなると述べています。

ガイド案の第13章に「Listeria属菌またはLmの制御を検証するための環境モニタリング」として、次のように書かれています。

 

「リステリア属菌環境モニタリング」

  1. 目的

①Lmのコントロールプログラムの有効性を確認する。

②施設内にLmと隠れ家が存在する場合は、それらを見つける。

③施設内でLmおよびが見つかった場合、是正措置によりLmおよび隠れ家が除去されていることを確認する。

  1. 実施内容

①環境サンプルの収集(食品接触面および食品非接触面)

②汚染源を特定するために収集した環境サンプルを検査

③Listeria属菌の存在を示す場合には、Lmその隠れ家を除去する適切な是正措置を取る。

  1. 戦略

①RTE食品の特性と、製品を生産する加工方法の両者の環境特性に基づいて、環境モニタリングのための戦略を確立。

②リスクベースのアプローチを使用することを推奨。

③RTE食品がLmで汚染され、生物の増殖をサポートするリスクが大きければ大きいほど、環境サンプリングと検査の頻度が高くなり、リステリア属菌を検出した場合の是正措置は厳しくなる。

④表3は、RTE食品がLmに汚染されるリスクにどのように影響するかを示す。

 

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 我が国でもLm症は発生しています。食中毒とは関係がないように見えますが、米国のような能動的食中毒調査を我が国で実施すれば、Lm症の原因の多くが食事由来であり、食中毒であることが明確になると思われます。Lm食中毒も、大流行して後始末に追われるよりも、未然に食中毒やリコールを防止する対策を実施しましょう。         

 

【参考文献】

1)厚生労働省:リステリアによる食中毒

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055260.html

2) 神奈川県衛生研究所:リステリア症について考えてみよう,衛研ニュース第173号(2016年3月)

http://www.eiken.pref.kanagawa.jp/005_databox/0504_jouhou/0601_eiken_news/files/eiken_news_173.pdf#search=%27%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%A2+%E9%A3%9F%E5%93%81%E5%AE%89%E5%85%A8%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A%27

3)米国食品医薬品庁(FDA): RTE食品中のリステリア・モノサイトゲネス抑制のためのガイダンス改定案(2017年1月)

http://www.fda.gov/food/guidanceregulation/guidancedocumentsregulatoryinformation/ucm073110.htm

4) Deepthi Apoorva, et al: Listeriosis: A Grim Reality for the Food Industry(2017年6月)

http://www.foodsafetymagazine.com/magazine-archive1/junejuly-2017/listeriosis-a-grim-reality-for-the-food-industry/

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