一色先生のコラム

食品微生物とともに生きるために

北海道大学大学院水産科学研究院安全管理生命科学分野  一色賢司 本シリーズは、食品取り扱い関係者のご要望により、食品と微生物の関係を考えるときの参考となるように書き始めたものです。

第3話  食中毒を防ぐには

ねぎ アスパラ

食中毒を起こすO157や黄色ブドウ球菌は、肉眼では見えません。直線に1,000個並べて、やっと約1mmになります。食物の生産から消費まで、見えない食中毒菌に対し、皆で気を付けなければ食中毒は防げません。

食中毒予防のため、皆さんが食中毒菌に生まれ変わったと仮定して、自分自身が生き残り作戦を展開を考えてみるなど、 食中毒菌のことを良く知り、対策を考えてみることが大切です。

我々は微生物と共存しています。微生物のいない世界では、人間は暮らしていけません。味方の微生物もいれば、食中毒を起こす微生物もいます。そんな過去の経験や知識と科学技術を頼りに、微生物を殺したり、増殖させないようにしたりして食中毒から逃れています。 1996年のO157による大型食中毒事件から得られた教訓は、食中毒対策だけではなく、感染症対策も必要であるということです。

寿司

食中毒対策の3原則は、「清潔」「迅速」「温度管理」で、食中毒菌を近づけない、早く食べてしまう、熱で殺す、あるいは冷して増殖させないことです。感染症対策の3原則は、「原因対策」「感染経路対策」「宿主対策」で、病原体を殺す、近づけない、隠れ家を与えないことです。

給食

生食の食文化を持つ我が国では、食中毒対策のみに固執せず、皆で積極的に食水系感染症対策に取り組むことが必要です。農家や漁師も食品加工業者も流通業者も皆、食品の消費者です。言い換えれば、全ての人間は食生活者です。楽しい食生活を送るには、食生活者全員が食中毒の勉強をし、皆で対策に取り組むことが必要です。年少者、老人、免疫の低下している方は、食中毒は特に注意が必要です。

食中毒を防ぐため、食中毒菌の特徴を知りましょう。写真はいずれも食品安全委員会の資料です。


ノロウィルス ノロウィルス

塩素系殺菌剤の方が、アルコールよりも有効。
牡蠣等貝類の生食により発症することがあるが、他の食材も油断できない。
人から人への二次感染もある。
症状 潜伏時間24~48時間。下痢、吐き気、腹痛、38度以下の発熱。 対策 二枚貝は中心部まで充分に加熱する。野菜などの生鮮食品は充分に洗浄する。感染者の便、嘔吐物は要注意。

サルモネラ属菌 サルモネラ属菌

動物の腸管、自然界(川、下水、湖など)に広く分布。
生肉、特に鶏肉と卵を汚染することが多い。
加熱で死滅する。
症状 潜伏時間6~72時間。激しい腹痛、下痢、発熱、嘔吐。長期に渡り保菌者となることもある。 対策 肉・卵は十分に加熱(75℃以上、1分以上)する。卵の生食は新鮮なものに限る。低温保存は有効、しかし過信は禁物。

腸管出血性大腸菌 腸管出血性大腸菌(O157含む)

動物の腸管内に生息し、屠殺後生肉への汚染を起こし、糞尿を介して飲料水、井戸水を汚染する。加熱や消毒処理に弱い。
わずかの菌量でも発病することがある。
症状 感染後1~10日間の潜伏期間。 感冒様症状のあと、激しい腹痛と大量の新鮮血を伴う血性下痢。発熱は少ない。 重症では溶血性尿毒性症候群を併発することもある。 対策 加熱に弱いことから、食肉は中心部までよく加熱する(75℃、1分以上)。 野菜類はよく洗浄。と畜場の衛生管理、食肉店での二次汚染対策を十分に行う。低温保存の徹底。

腸炎ビブリオ 腸炎ビブリオ

海に生息。魚介類を汚染する。真水や酸に弱い。
室温でも速やかに増殖する。
通常の加熱で死滅する。
症状 潜伏時間8~24時間。腹痛、下痢、発熱、嘔吐。 対策 魚介類は新鮮なものでも真水でよく洗う。短時間でも冷蔵 庫に保存し、増殖を抑える。60℃、10分間の加熱で死滅する。二次汚染にも注意。

黄色ブドウ球菌 黄色ブドウ球菌

人や動物の皮膚等に常在する。
増殖に伴ってエンテロトキシンという毒素を生成し、これによって発症する。
毒素は100℃、30分の加熱でも無毒化されない。
症状 潜伏時間1~6時間。吐き気、嘔吐、腹痛、下痢。 対策 手指の洗浄、調理器具の洗浄殺菌。 手荒れや化膿した傷のある人は調理用手袋などをし、食品に直接触れない。防虫、防鼠対策をする。低温保存は有効。

カンピロバクター カンピロバクター

家畜、家禽類の腸管内に生息し、食肉(特に鶏肉)、臓器や飲料水を汚染する。
乾燥にきわめて弱く、また、通常の加熱で死滅する。
少ない含量(500個前後)でも発症する。
症状 潜伏期間が2~7日と長いことから、原因食を特定できないことが多い。
発熱、倦怠感、頭痛、吐き気、腹痛、下痢等。
対策 調理器具を熱湯消毒し、よく乾燥させる。肉と他の食品との接触を防ぐ。
食肉処理場での衛生管理、二次汚染防止を徹底する。

ボツリヌス菌 ボツリヌス菌

動物の腸管や自然界に広く生息する。空気のないところで増殖し、熱にきわめて強い芽胞を作る。 毒性のきわめて強い神経毒を作る。
80℃で20分以上の加熱で毒素は分解される。
症状 潜伏時間12~36時間。吐き気、嘔吐、全身倦怠、神経症状。下痢は少ない。
致命率は25%と高い。
対策 いったん発生すると重篤になる。いずしによる発生が多い。いずしを作る際は新鮮な生魚をよく洗う。 容器が膨張している缶詰や真空パック食品、異臭のあるいずしは食べない。

ウエルシュ菌 ウエルシュ菌

人や動物の腸管や土壌、下水に広く生息する。
空気のないところで増殖し、耐熱性の芽胞を作り、増殖に伴い毒素を作る。
毒素は100℃、1~4時間の加熱に耐える。
症状 潜伏時間は平均12時間。腹痛、水様性下痢、嘔吐。 発熱はない。 対策 調理後は早く食べる。前日調理したものや再加熱したものは避ける。室内放置をしない。

セレウス菌 セレウス菌

土壌などの自然界に熱に強い芽胞として広く生息する。
毒素を生成する。
芽胞は100℃、30分の加熱でも死滅しない。
症状 下痢型は潜伏時間8~16時間。下痢、腹痛が主症状。嘔吐型は潜伏時間平均3時間。吐き気、嘔吐が主症状。 発熱はない。 対策 米飯やめん類を作り置きしない。穀類の食品は室内に放置せずに調理後は10℃以下で保存する。

リステリア モノサイトゲネス リステリア モノサイトゲネス

家畜、野生動物、魚類、河川、下水、飼料など自然界に広く分布する。
4℃以下の低温でも増殖可能。65℃、数分の加熱で死滅する。
未殺菌チーズ、食肉、野菜サラダ、刺身などを汚染する。
症状 潜伏期間は24時間から数週間と幅が広い。倦怠感、弱い発熱を伴うインフルエンザ様症状。 妊婦、乳幼児、高齢者では重症になることがある。 対策 生肉、未殺 菌チーズなどをできるだけ避ける。冷蔵庫を過信しない。

【つづく】

写真:食品安全委員会資料より

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